コラム

ウィザナリア、避難民の声

防壁はドラゴンの吐く炎でスライムのように溶け、夜でも魔導ランタンの灯りが絶えない“星の都”と言われていた街並みは瓦礫に変わっていた。

移動を強制され、大きな悲しみを受け止める時間もなかったと、避難民のドルト・ウォース氏は語ってくれた。テントの中で眠ろうとすると風に揺らされた木々の音に驚いて眠れない。ドラゴン襲撃当時のことを聞くと、「“怒れるドラゴンは国をも滅ぼす”とは本当だった」と話した。

30年前に建てた、魔法陣の施された木造2階建ての一軒家に、孫娘(14)と2人で暮らしていた。奥さんは11年前に亡くなり、3人の子は独立して近くには住んでいない。

28日朝、2階で1人で食事しているときに激しい咆哮が聞こえ、驚いてベランダに飛び出した。見えたのは東側の空が真っ赤に燃え、炎の壁が迫ってくる様子だった。事態を把握したのは、国境沿いの避難キャンプに着いた後だった。ただ、避難翌日には近隣諸国の兵士が焼きたてのパンを届けてくれた。

気にかかるのは、当時街に買い物へ出ていた孫娘だ。息子たちに届けてくれるよう兵士に手紙を渡したが、息子たちは世界を飛びまわる仕事をしているため、届く保証はない。

近隣諸国には知り合いもいない。避難民が多いため、家を借りようとしても後回しになるのではないかと不安を話してくれた。近隣諸国の物価も分からず、一家相伝の魔法書を売るしかないとドルト氏は嘆いた。

孫に渡すと決め、家庭魔法の簡要化を記した魔法書は、価値が高いか低いかも、それどころか売りに出せるかも不明だ。先行きが見えない状態に肩を落とした。

プレスレポ:現代アート展『~ 強制? 矯正? 共生? ~』

いよいよ来週から、第9回 現代アート展『~ 強制? 矯正? 共生? ~』が王立第一美術館西棟にて開催される。

今回は一足お先にプレスカンファレンスへの招待状を入手できたので、僭越ながらそのご報告をば。

まずはアエム・ルレルダダリア・トーランス館長のご挨拶から一部を引用させていただきたい。

“われわれは過去、自分たちの利益を追求するため、他の種に対して暴力を以てなにかを強制したり、あるいはその本来の在り方を矯正したりしてきました。その過程で絶滅させられた種や、今まさにその危機に瀕している種も多数あります。しかしそれは正しい姿勢ではなかったと堂々と言い切れるようになったのはわれわれの長い歴史から見ればごく最近のことであり、完全なる達成にはまだまだ程遠いと言わざるを得ません。今期の展覧会ではそうした問題意識を共有する17種族、41組のアーティストからお寄せいただいた計58作品を展示しております。”

この日プレス公開されたのは、そのうちの4作品だ。

1階メインホールで館長のご挨拶を頂戴した後、全員に配布されたガイドペンダントを首またはそれに相当する部分に掛ける。

今回は展示の性質上、作品へ/からの投影・汚染を防ぐ魔力遮断機能が通常より高く設定されている(レベル5相当)ので、延命魔法を常時使用している場合などは受付にて申告されたいとのこと。

さあ、それでは以下に作品のレビューを開始しよう。

門外漢ゆえ、ご笑覧いただければ幸甚である。

続きを読む

整形魔術へ使用許諾 解呪までの期間に限定

失われた体の一部を、誰でも取り戻せる時代が来るのかもしれない。

先日、フラウジア医療魔術研究所が開発した新しい医療魔術へ限定的に使用許可がおりた。呪いによって治療魔術を受けられない人々のために開発されたもので、患者の体の一部を本物そっくりの代用品で補うというもの。外耳や鼻、四肢などの欠損に対し使用する。

代用品で補うため、体そのものを元通りにする医療魔術とは違う分野となる。フラウジア医療魔術研究所は、今回の新魔術を「整形魔術」と命名している。

整形魔術の臨床試験は、患者にかけられている呪いが解呪可能なものであること、呪いがとけるまでの期間のみ代用品を使うことなどの条件を満たした患者へ、本人の同意を得て行われる。

呪いによって治療を受けられない人は、政府の調査で判明しただけでも200万人を超える。差別意識の強い地域では、いまだに被差別種族が奴隷的な扱いを受け、種族の特徴的な部位を切断される事例が後を絶たない。

そういった傷は呪いを付与した刃物で負わされることが多く、解呪にかかる期間も長い。短命種族は治療を受けられないまま寿命を迎えることも多かった。代用品とはいえ体の一部を取り戻せる整形魔術は、心身ともに傷ついた人々の救いの手になる。

エルフ族のFさん(仮名)も、整形魔術の完成を心待ちにしていた一人だ。

続きを読む

コラム:古代呪文を読み解く【第1回】ゼンベイガナイタ

何をどうすれば、他者の興味を引けるのだろうか。

ものづくりに携わる者であれば、一度は考えたことがあるのではないだろうか。

価値を理解してもらえる唯一に出会うだけでもいい、という方もいるだろう。

しかしその”唯一”に出会うためにも、大勢の元へ届けなければならない。どんなに素敵な発明であっても、無言で渡してしまっては受け取った者は首を傾げて終わってしまう。けれど大勢に懇切丁寧に説明をする手間も時間も魔道具もない、と頭を抱える魔術師もいることだろう。

そんなときは、先人の知恵を借りようではないか。古い呪文を使ってみるのも、気分転換になるかもしれない。

続きを読む

増加する「留年スラム」 止まらない若者の浮世離れ

留年、失踪、転生──学部を4年間で卒業できる大学生が6割に満たないという統計がある。

特に留年した学生たちが地下のダンジョンに作りあげる「留年スラム」は、社会問題として近年注目を集めている。

名門として知られる王立アトス大学もまた、「留年スラム」を多く抱える大学の一つ。筆者は所在地の秘密を守る条件で、アトスにおける留年スラムへの特別取材を許された。

「ここには何でもある。単位以外はね」

リム・メイ君は、魔法デザイン学部の5回生だ。昨年の春に留年が確定して以来、ずっとこのダンジョンの外には出ていないという。彼の言葉通り、薄暗いはずの迷宮には人工太陽が浮かび、乱雑に立ち並ぶ出店は活気に満ちていた。衣服に食事、娯楽さえもが留年スラムには流通している。

「時空が歪んでいるんです。気付いたら留年していました。ひどい話ですよ」

ユグドラうどんを立ち食いしながら、リム君の声に怒気が滲んだ。アトス大学周辺では、魔法実験の影響により実際に時間の流れが歪むことがある。彼もまた、そうした歪みの犠牲者なのかもしれない。

(△留年スラム居住区。地上から流れ着いた廃品が活用されている)

「卒業研究とか、就活とか、ピンとこないし。いっそ、現世を離れちゃってもいいかなって」

そう語るのは、儀式学科36回生のパパゼ・スパリボル君。30年以上の留年歴を誇る重鎮だ。身体に青色の炎を纏っている彼は、昨年度からこのスラムで精霊転化の儀式を始めたという。

「授業がない分、儀式に集中できるんだ。もう存在位相の7割は精霊界に移しちゃってるよ」

パパゼ君の笑顔は半透明で、彼の肉体を通して背後の景色が垣間見えた。

熱くないんですか。そう尋ねようとした次の瞬間には、パパゼ君の姿は煙のように消えていた。それからパパゼ君のことをスラム中に聞いて回ったが、一人として彼のことを覚えている留年生はいなかった。

現代の若者文化は、確実に浮世離れを始めている。魔法学生の闇は深い。

(追記:本記事の公開直後、当該スラムは大学当局の安全衛生委員会・突撃司書隊の手で完全撤去された)

治療魔法と新たな可能性「再生魔法」

さて、みなさんは治療魔法はご存知ですか?

治療魔法は、

  • 傷の修復
  • 炎症抑制

の2つが主な目的で使われる魔法です。

しかし、この魔法では命に関わるような重大な怪我には対応しきれないという弱点があります。

その弱点の克服のため、昨今新たな魔法の研究も進められています。

魔法の名前は「再生魔法」。

今回は治療魔法との差異も含めて説明していきます。

続きを読む

「名付けの儀式」 原始の魔法忘れるべからず

暗闇から誰かが覗いている気がする。そう、あなたの部屋の戸棚の、ちょっとした隙間から…視線があなたを見つめている…。

「それはいたずら妖精の仕業だよ」

現代の魔法使いは軽く笑い飛ばすだろう。だが、その行為こそが原始的な魔法の一つ「名付けの儀式」である…ということはご存知だろうか?

人は夜を恐れ、暗闇から現れる者たちを恐れた。それらには「名前」がなかった。

それは何者なのか。
なぜ現れるのか。
それはどんなものなのか。

人間たちは「よくわからないもの」を恐れた。それらが暗闇からにじり寄り、這いでてくることを恐れたのである。そこで行われたのが、恐れ…恐怖の正体への「名付けの儀式」、原始的な魔法のひとつだったのだ。

誰もいないのに、突然すねをくすぐる感覚がある…それらは「すねこすり」と名付けられた。

宵闇の森の中、暗がりから恐ろしい狼の遠吠えをきいた…それらは「送り狼」と名付けられた。

夜の墓場、うすぼんやりと明るい火の玉がゆらり、ゆらりと浮かんでいる…それらは「狐火」と名付けられた。

これらは東の国で名付けの儀式によって生まれた妖怪たちの話である。だが、不思議なことに、世界各地でも「よくわからないもの、現象」に対して名付けの儀式が行われたのが確認できるのだ。

悪いことが起きるのは悪霊のせい。
腰が痛むのはどこかの魔女の呪いのせい。
誰かが睨んでいる気がするのはいたずら妖精のせい…。

人々は「よくわからないもの」に「名を付ける」ことで、恐怖に打ち勝ってきた。名を付けられたものたちは妖怪として、魔法生物として、あるいは魔法現象として扱われ、恐れられることは少なくなっていった。名前のあるものは(直接触れられなくとも)そこに存在する「何か」である、と定義づけられているからだ。

だが、忘れないでほしい。

人間たちが名付けたのは世界の一部分だけだということを。まだ名付けられていない「得体のしれないもの」が存在することを。あなたを暗闇から見つめる名もなき「何か」を、忘れてはいけない。

「理解したつもり」でそれらに立ち向かうのは賢者ではなく、ただの愚か者なのだから。

「恐れよ! 怖れよ! 畏れぬ者どもは月夜に溺れ、底抜けの闇へと墜ちていくのだ!」
(歌劇フォルトゥーナ第四幕 アン・ターシャ訳より)

人権侵害か? 企業による魔力搾取の是非

背広に腕を通し、通勤電車に揺られ、席に着けば魔力帯を履く。

一般的なサラリーマンによく見る朝の風景だが、そんな風景も近く形を変えるかもしれない。

デスクワーク系のサラリーマンではよく見られる「会社支給の魔力帯を履く」という行為が人権侵害に当たるのでは? という声があがり始めているのである。

会社勤めでない読者のために説明すると、魔力帯とはいわゆる「魔力抽出装置」であり、これによって企業は運営に必要な魔力を得ている。

しかし、高魔力児の誕生増加に伴う企業専属魔術師の増加や、「魔力は生命の力であり、それは家族や己の人生に使うべき」といった価値観の変化によって、「専属魔術師以外に魔力の提出を求めるのは搾取なのではないか?」という考え方が若者の間で広まっている。

従来からの伝統を重んじる企業からは「会社は家族であり、家族を助けるのは当然ではないか」という声もあがっているが、一部では若者に賛同して献魔法式で魔力を集める企業も出始めている。

また、専属魔術師互助会からは「たしかに一般人よりも魔力換算能力は高いが、専属魔術師も人であり、高負荷を強いれば共倒れになってしまう。企業に対する専属魔術師の数は足りているとは言えず、企業との共存を目指していきたい」との声明を出している。

公を取るか私を取るか、判断を誤ればどちらも失うというのが人の世の常である。

調理の杖 〜グリフォン〜

グリフォンとは、その多くがコーカサス地方の山中に生息している、鷲の上半身に獅子の下半身を持つ魔法生物である。魔法界ではその気高さ、厳かさから、古来より王家の紋章に入れられることが多く、王の象徴ともされたという。

第1回目は、この王家の獣、グリフォンを「食」の観点から紹介する。

グリフォンを「肉」として見たことのある魔法使いはほぼ居ないだろう。そもそも、誇り高く賢いグリフォンを狩るのはドラゴンに鼻炎薬を飲ませるのと同じほど難しく、心得のある狩人でなければ狩りは不可能である。そして、その肉も非常に高価であり、今や「グリフォンを食べる」という文化自体が薄れつつあるのが現状だ。

しかし、実際グリフォンの肉にはスタミナと魔力の増強効果があり、さらに大昔には、「戦の前に戦士たちが皆グリフォンの肉を生で食べて精をつけていた」という文献が残っているほど、グリフォンとは魔法使いに身近な食材であった。

まず調理法だが、グリフォンを食べるにあたり、グリフォンは成熟すると肉が固くなり、味もかなり獣臭くなってしまうという難点がある。ハーブとショウガ、マンドラゴラ(別名マンドレイク)の葉をすり潰して混ぜたものでよく揉み、一晩ほど漬ければ獣の臭みは消えるが、肉の硬さは消えない。また、グリフォンの細胞は魔法に抵抗を持ち、魔法をほとんど通さない為、切り裂き魔法等の調理魔法は効果がない。

しかし、グリフォンの体の緊張を解く効果がある瑪瑙(めのう)を用いて肉をよく叩くことで、肉がほぐれ、ほどよい柔らかさになる。あとはこれをオーブンで焼くだけだ。

グリフォンの肉は鶏肉に似た食感を持ち、まろやかにした山椒のような風味が特徴だ。味付けにスパイスやソースを加える必要のないその独特な風味は、決して他の獣にはない、グリフォンならではの味わいだろう。

かつては知恵と王家の象徴にされた獣。

貴方も是非1度、彼らを味わってみてはいかがだろうか。

“奴隷の価値も無かった” 大富豪ハルフェンの壮絶人生

魔術師ならば知らぬ者はいない魔法薬・魔術触媒製造の最大手、ダイスクリーム魔術化学社。

その創業者にして現CEO、ハルフェン・ダイスクリームはエルフ人種の女性とオーク人種の男性の間に生まれた。

オーク人種とエルフ人種の対立と差別の問題は今でこそ解決の兆しが見えているが、今から90年前、ダイスクリーム氏がまだ少年だった頃はオークとエルフは互いにいがみ合い、貶し合い、殺し合っていた。

「私の母は戦争捕虜としてオーク人種の同盟軍に捕らえられ、強引に妊娠させられました。それが私だったのです。当時は中絶魔法が無く、私は健康体でこの世に産み落とされましたが、母は私の存在を忌まわしいものとして捉えていました。
エルフ人種は異常なまでに血統や純血を重んじる種族です。それは母も例外ではありませんでした。しかもその混ざっている血がオーク人種のものとなれば尚更のこと。私は物心つく前から虐待を受けていました。

ある日、母は虐待に飽きたのか、それとも他のエルフの人々からイジメを受けることに耐えかねたのか、私を奴隷商に売ろうとしました。しかし奴隷商は、オークとエルフの混血なんて誰も買わないと言って拒否しました。私には奴隷の価値もなかったのです」

ダイスクリーム氏はまるで他人の人生のように、自身の壮絶な過去を淡々と語る。

「この時私は家を出て母のもとを離れることを決意しました。このままでは母は私を殺そうとするか、自殺するだろうと思ったからです。

私は家を出て早速仕事を探しました。人種を悟られないように肌を泥や布で隠して、街中の商人や職人に頭を下げました。そしてやっと、ある一人の商人の方が私を小間使いとして雇ってくれたのです。私は死にものぐるいで働きました」

ダイスクリーム氏はそこで商いの方法や数学、文字の読み書きを勉強し、商人として独立したという。もちろん、顔や肌は隠しながら。

「私は魔術を学び始め、魔法薬の売買に興味を持ちました。魔法化学が比較的得意だったのもありますが、理由はなによりも、魔法薬を買っていく魔術師たちが私の容姿を気にする様子が無かったからです」

ダイスクリーム氏は商品を魔術師向けの魔法薬や魔術触媒に絞った。彼がドーランや布で顔を隠さなくなったのもこの時期らしい。

「魔術師の方は少し変わった人が多いのですが徹底した実力主義者で、魔法薬の質が良ければ私の容姿や血筋のことはまったく気にしませんでした。私はそれがとても嬉しかった。純粋に私の努力だけを見てくれたから」

小さな街の魔法薬屋からスタートしたダイスクリーム社はいまや年商約600億ライラの大企業だ。ダイスクリーム氏本人も、毎年発表される世界の大富豪トップ100の上位に君臨している。

「私はもう母のことは恨んでいません。ダイスクリーム社のビルが建ったあたりから金をせびりに来ましたが。

もちろん、私が産まれる前に姿を消した父のこともです。今では彼に会いたいとすら思っていますよ」

ダイスクリーム氏はそう言って笑う。

最後に、月並みな質問ではあるが、彼に成功の秘訣を聞いた。

「自分を無駄な存在だと思わないことです。“自分はこれができない、あれができない”と思った時は、できるようにしようと思う。ですが、“自分は無駄な存在だ”と思ってしまうと、何をしても虚しくなって、何もできなくなる。誰に言われてもどれだけ言われても、自分は絶対に生まれてきた意味があるんだと信じ続けることです」

ダイスクリーム氏は小さな魔法薬屋の頃から毎年欠かさず、子どもを保護する施設や人種差別解消運動を行なっている団体への寄付を続けているという。