研究

研究中間報告 ドラゴンが卵生を選択する理由

王立魔法生物学研究所(王魔生研)の朝倉です。

古来より根強い人気があり、それ自体でひとつの学問体系を成すドラゴン学(Dragonology)。

今回はドラゴンが卵生を選択することについて、新たな知見が得られたため紹介します。

ドラゴンの卵。初級錬金術の教科書でも紹介される最高の魔法触媒のひとつであり、同時に、採取においても最高難度の素材であることが知られています。昨今のドラゴン飼育法の改善にもかかわらず、いまだ天然のドラゴンの卵が効能においても最上であることから、高額で取引され偽物も多く出回っています。

さて、このドラゴンの卵に関して、このような疑問を持ったことはないでしょうか。

“卵で生まれてこなければ、盗られることもないのに”と。

ドラゴンの生態の多くは謎に包まれています。群れを成すものから単独生活を行うものなど様々であり、仔育てについても共通しません。卵を守り、孵った後も餌付けをする種から、自分のテリトリーの外に卵を産み付けたら放置をする種、さらに有史以来いまだ産卵が確認されていない種まで様々であることが報告されています。

しかし、これらすべての種に共通するのが、営巣地から卵が移動したのを感知する能力を持つことです。

もちろん、この能力にも種間で差があるため、留守を狙って卵を採取できる種もあれば、何千里も離れていたにもかかわらず、卵の採取が発覚してドラゴンが街ごと滅ぼした例もあります。新種のドラゴンによる被害について、この卵の採取仮説も含め、様々な仮説が王魔生研内でも検証され始めています。

近年まで、ドラゴンはこの特殊な知覚能力を持つため、卵生を選択すると考えられてきました。

ドラゴンは闘争が絶えない種であり、妊娠を選択した場合の戦闘における胎児の死亡リスクが高いことがひとつ。また、生態系の頂点に君臨し、営巣地に近づく他の動物が少ないことから、卵生の方が生存率が高くなると考えられます。

しかし、最近の研究結果から、どうやらそれだけが理由ではないことがわかってきました。

寒冷地に住むフロストリザード(Glaciatus属)の一種など、胎生のドラゴン近縁種における研究から、生活環境が著しく厳しい場合、かつて卵生だった種が胎生に進化することが明らかになりました。フロストリザードは、卵生であるフォレストレッサードラゴン(Acerunguis lustrum)が寒冷地に適応し、胎生へと進化した種であると考えられています。

このように、ドラゴンは厳しい環境に適応するため、胎生に進化するのが一般的です。

ドラゴンは、より強大で希少な種であるほど、他の生物では生存も難しい環境で生活することが報告されています。また、多産のドラゴンでも出卵数は胎生の動物種の出産数と大きく変わらないことから、出卵数を増やすといった生存戦略をとっていないことが知られています。

では、どうして卵生を選択し続けるのでしょうか。

ドラゴン学の権威であるアンダーソン教授との共同研究に、1,000年前の地層から発見された古龍の卵を孵化させ、飼育するプロジェクトがあります。現在、3つの卵のうち、2つを孵すことに成功し、ドラゴンの研究を大きく進歩させることに成功しました。この成果から見えてきたことがあります。

それは、ドラゴンの卵は条件を満たさなければ孵化しない、ということです。この孵化の条件については今後も研究が必要ですが、より一般的な種ほど単純な条件で孵化すると考えられています。また、もしドラゴンが胎生を選択するならば、この孵化の条件が出産の条件となり、条件を満たすまで胎児を抱えることとなる可能性が示唆されました。

つまり、より一般的なドラゴン種では、闘争時における胎児の死亡リスクと卵を盗まれるリスクの間のトレードオフで卵生を選択し、より希少な種では、出産条件を満たすまで胎児を抱えるリスクと厳しい環境リスクの間のトレードオフで卵生を選択したと考えられました。

現在、ドラゴンの近縁種であるレッサードラゴンや大蛇種の卵生・胎生選択から、中程度の環境リスクであると考えられる地域に生息する比較的孵化条件の緩いドラゴンが胎生を選択する理由について、研究を進めています。

今後の報告をご期待ください。

ウィザナリアを滅ぼしたドラゴン、新種と発表

学術都市ゾルドアは、ウィザナリアが滅亡した原因がまず間違いなく新種のドラゴンであると発表した。

元ウィザナリア領地、ヴィジョンディープの森林を調査中にドラゴンのものとみられる痕跡が多数発見されていた。痕跡には既存種との共通点がなく、複数の専門家によって新種と断定された。

国王の補佐官を務めるブラック・クリーナー氏によると、ウィザナリアの王都跡地でウィザナリア王の遺品を捜索中、飛竜隊の攻撃や大規模魔術の跡と共に、破損した記憶水晶も発見されていた。記憶水晶には、地に落ちた飛竜隊員とワイバーンを喰らうドラゴンの姿が映っており、見たことのない禍々しい角や翼の特徴に調査中の魔術師は度肝を抜かれたという。また、以前発見された鱗の分析結果も既存のドラゴンと一致していない。

ゾルドアはドラゴンの爪痕や吐いたブレスの痕跡などを採取・記録し、記憶水晶、鱗のサンプルと合わせて世界各国の専門家に送り識別を依頼したところ、返答は「このような種のドラゴンは見たことがない」というものだった。近く学会で新種として登録される。

また、このドラゴンが生まれた年代についての研究調査も進んでいる。数百年前からウィザナリア領内に生息していた可能性があり、同地域に残るドラゴンの逸話からも新種ドラゴンの特徴と一致する記述が見つかっている。

これまで最強とされていたのは旧ドラミルド国山林で見つかったアゴニスドラゴンだったが、ブレスの威力や国の壊滅状況から分析すると新種の強さは他の種を凌駕している。

ウィザナリア滅亡以降、新種ドラゴンの目撃情報は絶え、どの地域を縄張りにしているのかすら分かっていない。通常ドラゴンは山林を中心に世界中のあらゆる場所に生息する。

新種ドラゴンの居場所が不明であることから、世界各国はそれぞれ国民へ注意を呼び掛けている。

「時の流れ遅くならなかった?」報告相次ぐ=サテン町区

78週18日昼頃、カレス・ノワ中央部、サテン町区付近で、奇妙な報告が多数寄せられた。それは”時の流れが一時的に遅くなった”というものである。

サテン町区は、カレス・ノワ中央部の西に位置する居住者4,000名程度の町で、四方をヒュルレ山、ジフクサン山、呪泉地としても有名なジッポロ山岳等の険しい地形に囲まれている。また、町の南にはサテン銀鉱や南ブラテン・ミスリル鉱山などの鉱山が存在し、一期前から一種のマニアには観光地として話題となっていた。18日も観光団体などが訪れ、町の名所を満喫していたようだ。

そんなサテン町区で、時の流れが遅くなる現象「歪時」が観測された。事故や事件、呪術、集団幻覚によるものでは、と一時魔警隊に報告が相次ぐ事態になったようだ。

SNS「Witchila」に投稿された報告によると、およそ1分程度にわたって、最大で2/3程度の速度まで時間の流れが断続的・不安定に遅くなったとのことである。現在当該の投稿は削除されているが、さらなる事故・事件の可能性を警戒するよう呼びかける声もあった。

その後の調べによって、歪時は自然現象によるものだったということが判明し、意外な顛末に人々は驚きの声をあげている。

地学の専門家トゥヴィ・ケタシィ氏はこのように述べた。

「ヒュルレ山の地下水脈は、町の地下を貫く形で東から西へ伸びており、一種のトンネルのようになっている事が知られています。また、同じくヒュルレ山では時空性の魔石がしばしば発見されており、その純度は非常に高く、世界でも珍しいレベルのものです。先日の雨で増水した水脈によって流れてきた魔石が落石などで破壊され、今回の歪時を引き起こしたと考えられます。実際に、空間の歪曲を調べるシンチレータ上でも、町の地下から強い歪曲を検出していて、どういった過程で魔石が破壊されたかはともかく、自然現象ということでほぼ間違いないでしょう。非常に珍しい事象で、いくつかの古い文献に似たような事象が書き記されているだけとなっており、私も240年近く研究を続けておりますが、初めて聞きました」

また町区の広報担当者は取材に対し、「びっくりしましたが、事件でなくて本当によかった。むしろ、サテン町区の新しい目玉として積極的に売り出していきたい。まずは…もちろん、ご当地ウィッチド・クロック(※)からですね(笑)」とコメントした。

(※ウィッチド・クロック:強い魔力が込められた時計の一種。蓄積されている魔素が尽きるまで、何度かエネルギーを解放することで、使用する当人の時の流れを一時的にコントロールすることができる。その上非常に細かい時間を表示できるので、当人以外の時間の流れも正確に把握することができ、インテリアとしても魔具としても人気が高まっている)

「猫の命、9個ではなかった」実態調査により判明

A cat has nine lives──“猫は9つの命を持つ”と信じられてきたが、アトス大学が新説を発表し、研究者の間で論争が巻き起こっている。

先日、王立アトス大学錬金経済学部は、猫の命は平均64,381.5個であることを報告。定説である9個を遥かに上回る6万超えという数値に、会場にはざわめきが起こった。

実態調査はマキフィアス・ル教授らを中心としたチームにより継続的に行われ、最終的には3431匹の猫がインタビューに応じた。動物語通訳の専門家を交え、綿密に計画された構造化面接によって得られたデータであり、サンプル数も充分に多く確度は高いという。

その衝撃的な命数に人類種の間では論争の種となっている一方、猫族からは「何万回も生きた猫なんて、一匹しか知らないよ」と、慎重なコメントが届いている。


(データ:王立アトス大学『年次報告書』78(2)より)

コラム:古代呪文を読み解く【第2回】ディスイズアペン

あなたは初めて異国の言葉に触れたときのことを覚えているだろうか。

綴られた見たこともない文字。知らない概念を表現する言葉。聴いたことのない音。それらが形成する言葉の意味を知るときの、あの高揚感。未知のモノを理解するときの喜びと、ほんのちょっぴりの恐怖。胸の中で妖精たちがダンスパーティーをしているかのようなざわめきが訪れる。

ここ何十年かで研究も進み、自動翻訳呪文の魔法陣や魔具が流通し始めた。巻物や書物をがさごそ漁り、分からない異国語を調べながら記していく、という作業は少なくなった。私自身もその恩恵を存分に受け、この記事を書いている。

しかし、自動翻訳呪文がなかった時代。古代の魔術師たちは、異国語を覚えるときはどうしていたのだろうか?その様子が伺える書物を先日入手できたので、内容から少しだけご紹介しよう。

遥か昔、実は彼らも異国の文字を前にし、まずは呪文を唱えたのだ。「ディスイズアペン」、と。

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言語統一で詠唱簡易化 無詠唱へ向けた研究進む

「詠唱が長い!」
「300語もの言語を一切噛まずに発声しろだなどとやっていられるか!」
「こんな複雑な魔法陣覚えられるか!」

魔法、あるいは魔術を学ぶ学生は嘆いている。もっと簡単な動作で、最高のパフォーマンスを発揮する魔術が欲しいと。

その叫びは痛いほど分かる。詠唱一つとっても様々な魔術言語が存在し、網羅しようとすれば分厚い辞書を片手に歩くハメになる。もちろん公式試合で辞書の持ち込みは不可能だし、戦場に立てばなおさらだ。

戦場のど真ん中で辞書を開きながら詠唱してごらんなさい。その間に弓で射られて死ぬから。

冗談はさておいて、この問題は古くから論じられていることだ。そして未だに最適解が見えてこない課題である。

一般的に魔術や魔法は、より強力な効果を求めれば求めるほど詠唱式、魔法陣、触媒などが複雑化、かつ肥大化していく傾向にある。逆を言えば、シンプルなものばかりでは、汎用的な効果しか発現しない。

確認されている限り、世界で最も複雑とされる魔術は以下の内容で構成されている。

〇炎を起こす魔術
1:詠唱において、「単語単位で9000語」使用。
2:魔法陣の大きさは、10,000平方メートル
3:使用した触媒の数は237個。総重量は533kg。

さて、こんなものが実用的かと問われれば答えは一つだ。「ノー」。

どんなに卓越した天才であっても、必ずどこかに綻びが生じ、術式がすべて破綻する。詠唱している途中にくしゃみをすればすべて吹き飛ぶし、魔法陣の微妙なズレが重なった結果、まったく違うものになることだってありえる。触媒の用意だって一苦労だし、コストパフォーマンスは最悪極まりない。

しかし、無理に短縮しようとしてどこかの工程を省いてしまうと、効果が発生しなくなってしまう上、予期せぬ事態が発生することもありうるのだ。

しかし、我々は夢を諦めない。

「火!」

と言って火を起こしたい。

「食い物!」

と言って豪華な料理を生み出したい!

現在、ナハーヘム市のディニーカリア大学詠唱学科では、「意味のある架空言語を創り出して、既存の言語の統合を行うことにより、詠唱の長さを縮める」という研究が行われている。現在は1/2が限界であるが、今後研究が進めば1/10にまで縮めることも不可能ではないようだ。

いつかは、指を振るだけで超常現象を発生させるグリモアも開発されるだろう。そうすれば、子供であっても簡単に魔術を扱うことができる時代がやってくる。

この研究が成功し、実用化されたならば魔法文明は飛躍的な進歩を遂げる。

長い詠唱、複雑な魔術式。それらが偉いなどというものは古典的な考えになってしまう日も遠くはない。

カラスク皇帝陵発掘調査 ついに主体部を発見

今年で第3次を迎えたカラスク皇帝陵の発掘調査は、ついに主体部の解明に及んだ。

カラスク皇帝陵は、4000年前に北方アドラスに存在した大帝国“エラム帝国”を築いたカラスク・エラスムス帝の墓と考えられており、全長211mの巨大墳墓だ。盗掘を受けておらず、初期魔法時代における地域支配についての成果が期待されていた。

主体部は、墳墓北寄りの中央に竪穴式の石室として存在しており、中には豊富な石製の棺とともに豊富な副葬品が見つかた。それらは発掘を主導したエドルシア博物館で調査が進められている。

同館によれば、副葬品の中には簡易的な初期魔法道具が複数含まれていたという。そのひとつが炎と風の二属性を込めた青銅製の剣で、当時の技術水準の高さが見てとれる。いまだ謎の多い魔法道具の製造技術の起源について、新たな考察が望めそうだ。

教授のライア・サトラ-氏は、「カラスク皇帝陵は、他にも前期エラム朝の良質な資料を含んでいる可能性が高い。今回の成果によって彼らが支配に用いたとされる魔法道具の開発、普及について、さらなる考察の余地を与えた」としている。

『星のささやき』解読に一歩前進

「人は誰でも、夜空の星々に語りかけたことがあるでしょう。彼らはそのすべてに、きっと応えてくれていたのです。これはまだはじまりでしかありませんが、私たちはこれから、彼らと話をすることができるようになる。その道筋がやっと見えました。これほど嬉しいことはありません」

国立アトス大学星読学部教授ミチエール・ホワイト氏はそう言って目を細め、使い魔のウンディーネと指を絡ませて喜びをあらわにした。

今から15年前、天体魔法研究者であるミチエール氏が、夜空の星々が極小の声を発していることを発見。50人余りのウンディーネたちと共に精製した水製の音増幅器を用い、『星のささやき』の存在を証明したことは我々の記憶にも新しい。

当時のミチエール氏の論文は革新的なものではあったが、当論文では『星のささやき』の存在を証明できたのみで、彼らが何を話しているのかまでは解明することができなかった。そこから現在に至るまで、同氏は星間言語の解読を試みていたが、去る7月7日、ミチエール氏はついにその一部を解読することができたと発表した。

ミチエール氏によれば、星間言語は古妖精語の言語体系に近い形を持つものだという。古妖精語は『訛り』と表現される大きな地域差・個体差があるほか、口伝している妖精たちがそこかしこにアレンジを加えてしまうために、解読が難航している古代言語だ。

星間言語はその『訛り』や妖精たちのアレンジが一切ない、純粋な古妖精語である可能性が高い、とミチエール氏は指摘している。今後は古妖精語の研究者や妖精民俗学の専門家とチームを組んで星間言語の解読を進める方針であると話し、今後の研究成果にも期待が高まっている。

魔力含有率99.5%以上!? 研究チーム歓喜の声、そのわけは

先日、モティス村の地下にて高純度の魔力石が発見されました。

写真は、今回発見された魔力石。強い光を当てると魔力が空気中に分解されてしまうため、暗い写真となってしまった。

モティス村とは?

モティス村は大陸東部に位置する人口50人ほどの小さな村です。

その歴史は古く、かつては伝統産業で有名でしたが、近代の急速な時代の変化に伴い、人口を減らし過疎村になってしまいました。

今回、村の地下から、超高純度の魔力石が発見されました。

魔力石とは?

魔力石(通称・魔石)とは、大気中の魔力が長い年月をかけてしみこみ、魔力を帯びた岩石のことです。

この鉱石は、ゴーレムの予備魔力、自動術式の代替魔力、その他瞬間的に強い魔力が欲しいときなど、さまざまな用途に利用されています。

魔力石という言い方は少々古く、現在では魔石という名称のほうが親しまれているようです。

魔石自体は様々な場所から採掘されていますが、今回発掘されたものはその魔力含有率が99.5%以上だったのです。

普通、魔力含有率が92%を超えると高純度魔力石と呼び高い値段で市場に回ります。

今まで自然界からとれた最高含有率が96%であることを鑑みれば、今回発見された魔石が驚くべき含有率であることがわかります。

いままで理論上でしか存在し得なかったこの超高純度魔力石は各国の研究チームに大きな衝撃を与え、さらなる応用魔術の発展が期待できます。

しかしこの発見に伴いモティス村の人々の立ち退きなど、新しい問題が生まれてしまったことを忘れてはいけません。

コラム:古代呪文を読み解く【第1回】ゼンベイガナイタ

何をどうすれば、他者の興味を引けるのだろうか。

ものづくりに携わる者であれば、一度は考えたことがあるのではないだろうか。

価値を理解してもらえる唯一に出会うだけでもいい、という方もいるだろう。

しかしその”唯一”に出会うためにも、大勢の元へ届けなければならない。どんなに素敵な発明であっても、無言で渡してしまっては受け取った者は首を傾げて終わってしまう。けれど大勢に懇切丁寧に説明をする手間も時間も魔道具もない、と頭を抱える魔術師もいることだろう。

そんなときは、先人の知恵を借りようではないか。古い呪文を使ってみるのも、気分転換になるかもしれない。

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