社会

ルタザシャ岩窟世界遺産登録へ ~忘れてはならない負の遺産~

この度、マルクトア公国ラウゴーア地方にあるルタザシャ岩窟が新たに世界遺産に認定された。同国における世界遺産の登録は、150年前に登録されたテオバルド鉱山帯に続いて2つ目となる。

ルタザシャ岩窟は、第4次魔法大戦の際に敵国軍から逃れたオーク族の人々がシェルターとして活用していた場所である。

この岩窟はルタザシャ山に数箇所あり、今回はこれらの全てが登録遺産の対象となっている。もっとも大きな岩窟は直径30m、奥行は8km程のものとなる。

現在は観光地として各岩窟までの山道も整備され、身体能力の低い人間族であっても比較的辿り着きやすくなってはいるが、戦争当時はオーク族ですら5人に1人しか辿り着けない過酷な場所であったと言われている。

その理由としては、ルタザシャ山の山肌にある。岩窟に辿り着くには、木々も生えていない岩ばかりの斜面を降りていかなければならず、足腰の弱い老人や、子供、女性は多くが滑落し、捕虜になることからは逃れられたものの命を落とした。

この背景からも推察されるように、この岩窟は他種族には容易に辿りつけない場所であり、シェルターとしてはかなり強固で有効であった。そのため、他種族からの侵攻から逃れたという点においては、オーク族の人々に安心をもたらした。

しかしながらそれは束の間の安寧であり、岩窟内では更なる問題が待ち受けていた。

何故なら、ルタザシャ山は鉱山としてはたいへん優れている山であっても、植物を生育するには非常に厳しい環境であったからだ。
そのため人々は十分な食糧を確保することができず、今度は飢えとの戦いを余儀なくされた。

この問題でも最初に犠牲になったのは弱者である老人や子供達であったが、悲劇はそこで留まらなかった。
日に日に積み重なる同胞の亡骸と飢えに苦しみにながらも生にしがみつく人々。そんなぎりぎりの極限状態の日々も長くは続かず、彼等は生への執着から最大の禁忌を犯してしまうことになった。

『同胞喰い』

彼らは生き延びるために、目の前に積み上げられた同胞の死体を食べて生き残ることを選んだのだ。

この事実に関してはその悍ましさ、凄惨さから教科書から一時期削除されている時代はあったものの、現在では伝えなくてはいけない史実として、オーク族は元より全種族の歴史の教科書に記されている。

中でも、多くの教科書に採用されている『ヘルマルク・ラウゴルフの独白』の一節は、強烈なインパクトから誰もが記憶しているだろう。

第4次魔法戦争から間もなく300年が経つ。

戦争当時を知っているオーク族も少なくなった。語り継ぐ者がいなくなれば、この陰惨な戦争も、将来は負のお伽噺として片付けられてしまうことだろう。

しかしながら、ヘルマルク氏の著書にも語られている通りこれらの出来事は事実であり、後世まで遺していかなくてはならない歴史である。

最後に、ヘルマルク氏の独白を用いてこの記事の結びとしたい。

“生き残るには食べなきゃいけねぇんだよ”

それが誰が発したかなんて覚えちゃいない。

でも、その声は決して大きくはないが、岩窟内にのオーク族全員に聞こえていることは何となくわかったんだ。

何万人といるのにだ──誰ともわからないその声が響いてからの出来事はあっという間だったさ。

誰しもが死体の山に駆け寄って行くんだ。昨日までは間違いなく人としてその死を悼んでいたみんな普通の連中がだ、今日には食糧として同胞の死体を見ているんだ。血走った眼でな。

そこからは地獄だった……朝夕問わず骨を砕く音や内蔵を啜る音が聞こえてくるんだ。

あんた、自分の妹が喰われているのを見たことあるかい?

なら、自分の親友を喰ったことは?

俺はな、親友だった男とその嫁とそれから子供。その3人を喰って今日まで生きてきたんだ──

──ヘルマルク・ラウゴルフの独白 序章より──

覚醒申告自動補助術式を導入 手続き簡略化進む

毎年山羊の月になると、「覚醒申告」の文字が目に入るようになる。

覚醒申告とは、体内の魔素分泌量が一定量を超えた場合に必ず行わねばならない申告手続のこと。

しかし、魔素分泌量の計測や詳細な使用用途の記載など、覚醒申告の手続きの難解さゆえに世の魔術師たちの悩みの種となっている。

そこで今年、魔導通信掲示板『アラクネット』において、覚醒申告の書類作成を補助してくれる自動術式の運用が開始された。

術式が提示する質問に順番に答えていくことで、自分が覚醒申告のどの分類に当てはまるのかがわかる上に、設置されたデバイスから魔素分泌量の計測や分泌量が一定量を超えた時期の特定が行える。さらにデバイスがきちんと揃っていれば、その場で書類を印刷することもできるという優れものだ。

自動補助術式の導入により、魔術師達からは喜びの声が上がっている。

「覚醒申告はとてもわずらわしい作業だからね。申告をサボる魔術師とかもよくいるんだ。僕はちゃんと申告していたけど、すごくストレスだったよ。この術式は便利だね。時間の短縮にもなる。政府もたまには良いことをするね」

「俺たちは体は一つなのに2人分申告しなきゃいけないんだぜ? 『そうだ。頭が2つだからな』覚醒申告の時期になるともう毎朝憂鬱さ。コーヒーの味もわからねぇくらいにな。『ハムエッグの味もわからない』アレ(補助術式)ができてマジで助かったぜ。これでゆっくり朝食を味わいながら新聞を読めるってもんさ『俺はマンガを読むぜ』国もたまには役に立つよな」

計測・印刷デバイスの設置は現在ハウザル地方のアラクネットに限られているが、国際魔術機構は2年後に全てのアラクネットへのデバイス設置を完了させることを目標としている。

面接マナー講座 魔法使い編

今年も就職活動の季節がやってきました。

これまで覚えた魔法を、どんな仕事に活かそうかと期待に胸膨らませる新米魔法使いの皆さん。どんな進路を考えておいででしょうか。

狙うは魔法省ですか? それとも近衛術師団?
敢えて小さな魔女の薬屋で活躍? もしくは路地裏の呪い師?

しかし――毎年、多くの新米魔法使いが、進路選びに失敗します。

王立星読院を目指していたのに、プールの監視魔導師になってしまったり。
医療魔導師になりたかったのに、気付いたら人型植物の剪定士になっていたり。
ひどい場合だと、魔術漁師の資格を取った筈が、異界潜航員として潜界艇に配備されてしまうなんてことも。

皆さんこんにちは。メンタル魔法士のパスタ・スヴァミソーニです。

就職、大事ですよね。せっかく魔法を身に着けたのだから、自分の魔法にあった就職先を選びたいところ。しかし魔法使いの就職には、往々にして悲劇がつきものです。

どうして魔法使いは進路選びに失敗してしまうのでしょうか? 答えは簡単です。魔法使いの大半は、面接で負けてしまうのです。

面接の基本

面接――進路選びにおいて避けては通れない関門です。

魔法の実力さえあれば、認められると思っていませんか?
黙っていても、面接魔導師が自動的に気持ちを読み取ってくれると思っていませんか?
残念ながらそんなことはありません。

面接は戦いです。

言語的な対話を隠れ蓑にした真剣勝負。それが魔法使いの面接です。

「はじめまして」の一言と共に形而上の仮想空間には電撃が飛び交い、「本日はよろしくお願いいたします」の声と共に非実体質量が爆発し、名前を名乗った瞬間から真名をかけた呪術的対決が始まっているのです。

もう一度言います。魔法使いの面接は戦いです。
隙あらば面接官を全滅させる――最低でも、面接官一人は討ち取る気概で挑みましょう。

入室で差をつけろ

「待合室の時点で面接は始まっている」というのは有名な話です。
もしも同じく面接を受ける新米魔法使いがいるならば、密かに連絡を取り合い作戦を練りましょう。複数人でかかることができれば、面接官の首級はぐっと近づきます。

とはいえ、新米魔法使いが結託して襲ってくることくらいは面接官も想定済み。たいていの新米魔法使いは個室に隔離され、個人戦を余儀なくされます。

そこで大切になってくるのは、入室時のマナーです。
入室は、面接において唯一無二の奇襲のチャンスです。

ノックの回数で呪いをかけましょう。ドアノブに触れた瞬間に魔法陣を這わせましょう。ドアを開ける動作で霊を降ろしましょう。そこまでやって最低限です。
可能であれば、入室前の段階で仮想空間の占有率を圧縮し、対面した瞬間に形而上の主導権を完全に握るつつもりで挑みましょう。もちろん、現象世界では笑顔を作ることは忘れずに。

もしも入室前の段階で、面接官がトイレに立つなどのことがあれば千載一遇の好機です。必ず闇討ちして、頭数を減らしておきましょう。とっさの対応力が問われるところです。

属性魔法は時代遅れ

自己アピールで、得意な属性魔法をアピールする……魔法使いの面接ではよく見る光景です。火属性が得意な人は火球魔法を披露したり、風属性が得意な人はかまいたちを披露したり。

ですが、残念ながらナンセンスです。
何度でも言います。魔法使いの面接は戦いです。

自己アピールは、形而下の現象世界で攻撃を仕掛けるチャンスなのです。

もちろん、物理的に面接官を傷つけてしまうのはマナー違反。自己アピールを装いつつ、形而上での布石を打つのがスマートなやり方です。
最も簡単なのは、「闇属性魔法が得意です」とアピールしつつ、面接官の心の闇に侵入する方法です。面接官の精神防壁が薄ければ、そのまま過去のトラウマを刺激して心を破壊してしまいましょう。

あるいは、「召喚魔法が得意です」とアピールしつつ、自分にとって有利なフィールドをまるごと召喚してしまうという手もあります。例えば観客ごとライブ会場を召喚して、単独ライブに持ち込むのは有効です。
ほかにも面接官の足元に「意味論的落とし穴」を召喚し、精神そのものを落としてしまう方法もおすすめ。召喚魔法は創意工夫次第で様々な利用法があります。自分だけの殺意を研ぎ澄ませましょう。

逆質問こそ最後のチャンス

面接の最後には、面接官が「何か質問はありますか?」と聞いてくることがあります。所謂、逆質問タイムです。

入室から自己アピールまで、うまく面接官と形而上で戦いを繰り広げていれば、お互いの精神は極限まで疲弊している筈。もちろん、より早く仕留められればそれに越したことはありませんが、逆質問は面接官を刈り取る最後のチャンスです。

よく知られている通り、現象世界における行動の表象は、形而上の仮想空間にも大きな影響を及ぼします。逆質問タイムはその表象のために、言語行為の主導権が完全に新米魔法使い側に移ります。面接官の論理防壁が極限まで薄くなる機会が、逆質問の時なのです。

「仕事で一番やりがいを感じたことはなんですか?」など、適当な質問を口にしましょう。この時、質問自体は適当で構いません。重要なのは、その後です。

面接官が正直に答えたならば、「私の質問に答えた」という表象を利用して、形而上空間では面接官の真名を引きずり出しましょう。形而下で正直に答えている以上、形而上世界で嘘をつくのは難しいのです。
面接官が嘘をついたならば、「私に嘘をついた」という表象を利用して、形而上空間で論理攻撃を仕掛けましょう。表象に絡みついた嘘という罪により、面接官の防御力が極限まで落ちている筈です。

ここで逆質問がうまくいけば、必ず面接官を倒せます。最後まで諦めずに戦いましょう。

まとめ

  1. 面接は戦いである
  2. 入室の段階で奇襲をかけろ
  3. 自己アピールで布石を打て
  4. 逆質問でトドメを刺せ

なお、今回の面接講座は新米魔法使い向けです。
戦士ギルド加盟各社への志望者や、エルフ族やドワーフ族では作法が全く異なってきますので、ご注意を。

[著者プロフィール]
パスタ・M・スヴァミソーニ
王立アトス大学錬金経済学部卒。3年前に株式会社スーパーナチュラルリサーチを設立。現在は魔法コンサルタントを兼務。座右の銘は「アジェンダを錬金術でマネタイズ」。

ゾンビに人権が認められる – バラグビア

芽吹きの月3日、バラグビア教皇庁は正式にゾンビの人権を承認すると声明した。ゾンビの人権が認められたのは世界初。

バラグビアは、複字教の聖地を擁する宗教国家。教皇を中心とした厳粛な政治体制で知られ、近年「聖地で死にたい」という観光客が増加、ゾンビ人口の急増が社会問題となっていた。

肥大する国内のゾンビ人口に対応する形で、バラグビア教皇庁はゾンビの人権を承認。正式な声明を発表した。

複字教では死者に人権を認めておらず、ゾンビ人権の承認は複字教国としてはきわめて異例。

神学者の見解では、ゾンビの人権問題を考えるにあたって重要な争点となるのは「心臓の鼓動」だった。

複字教の聖典には「聖者は心臓の音を聞き、人か悪魔かを見分けた」という一節がある。通常、ゾンビは既に心肺停止状態にあり、鼓動がないため悪魔の一種という判定を受けてきた。

しかし今回、ゾンビ側は「自らの心臓を手掴みで動かす」という方法で心音の問題をクリア。バラグビア教皇も「ハツが動いてんなら、人でええんちゃう」と笑顔を見せた。

「これまで我々は、人間と変わらぬ心を持ちながら、非人間的扱いを受けてきました」

喜びの声を上げたのは、ゾンビ人権団体代表のトゥフナット氏。氏は二十三体のゾンビが合体した、合成ゾンビとして知られている。

「これを機に、各国もゾンビの人権について再考すべきですね。……おっと失礼」

そう語るトゥフナット氏の八番目の顔が、弊社記者を丸呑みにした。

弊社記者はトゥフナット氏の二十四番目の合成体となり、めでたくトゥフナット氏付きの番記者へと配置転換された。平均2年から3年は精神も吸収されずに独立しているため、継続的な取材が可能な見込みだ。

一夜にして世界有数の人権先進国となったバラグビア。今後の動向に着目したい。

自己紹介にご注意を ~名取の一族~

突然だが、あなたは自分の名前の由来を知っているだろうか?

“名前”──それはあなたがこの世に生を受けた祝福として、いちばん最初に贈られるプレゼントだ。

「名付けの儀式」 原始の魔法忘れるべからずで紹介されているように、存在だけでなく事象に対して“名を付ける”という行為は非常に強い意味を持ち、また重要であるということは、記事を読まれたあなたなら理解しているだろう。

ちなみに、私のライターネームは季節に由来する。名前について話題を振っておきながら、なぜはっきりと明記しないのかと苦情が来そうだが、深く話せない理由はこれから紹介する内容にある。

“名取りの一族”をあなたは知っているだろうか。

彼らはその名が示すように、相手の“名”を“取”りその勢力を伸ばしてきた一族である。

冒頭でも述べたように、名前を持つということは、非常に重要なことである。なぜなら、名前はあなたとこの世界を繋ぐための“鎖”だからだ。

では、その名前が奪われてしまったとしたら。
奪われてしまったモノがどうなってしまうのか……。
想像には難くない。

“名取の一族”に関する情報は少なく、現在でも謎に包まれている一族のひとつである。

『いいかい。XXX──。
本当の名前を教えてはいけないよ。
名前を明かすということは、魂を明け渡すも同然だからね』

子供のころに祖母からさんざん──それこそ耳にタコが出来るほど聞かされた忠告を、この記事を書いている最中に何度も思い出した。

今思えば、祖母は彼らに関する情報を知っていたのかもしれないが、既に輪廻の輪に乗ってしまったため確認する術がないことが悔やまれる。

ただひとつ、この記事を読んでいるあなたに私からアドバイスをするとすれば、不用意な呼び掛けには応じるべきではないかもしれない。

もしかしたら、あなたのよく知っている友人や恋人が“名取の一族”である可能性がないとは言い切れないのだから。

フクロウ郵便で配達事故 植物園に新設されたカフェが原因か

デワンシェ月第1週ハマの日、フクロウ郵便に預けた手紙や荷物の配達が遅れる事故がフェルーリンデ市を中心に発生した。その日配達に出たフクロウのおよそ8割の到着が予定よりも大幅に遅れ、一部の手紙・荷物には汚損が生じていた。

原因は、フェルーリンデ市郊外のリンデランデ植物園に新たにオープンしたカフェ「とまりぎ」とその利用者の一部にあると、フクロウ郵便フェルーリンデ支部局長のトールマニー・ユピタ氏は語る。

フェルーリンデ市にはフクロウの休憩場所となる街路樹が少なく、フクロウ郵便のフクロウ達はリンデランデ植物園の樹木で休憩をとることが多かった。カフェ「とまりぎ」で食事中の魔法使いが、休憩中のフクロウにパンくずなどを与えることで、フクロウ達が休憩時間を長くとるようになってしまった。魔法使いの相棒として長い歴史を持つフクロウだが、食の誘惑には弱い。むやみにエサを与えないでほしい

この声明を受け、リンデランデ植物園とカフェ「とまりぎ」は「フクロウにエサを与えないで」といった注意書きの看板を設置すると共に、テラス席のメニューに同様の注意書きを記載すると発表した。

ユピタ氏は会見の最後に、「植物園のカフェ、フクロウ便のフクロウに限らず、外で見た動物にエサを与えるのは控えてほしい。彼らのためにも、ヒトのためにもならない」と伝えている。

若い世代の魔法が前時代化?その意外な理由とは

魔法の発展において、「術式の簡略化」「発動の高速化」は長らく大きな課題とされてきた。

余分な過程を省略し、速く、正確に、狙った効果だけを発動させる。それが優れた現代魔法の条件である。

しかし近年、若い世代で古い形式の魔法が流行しているという。細かい魔法陣を描き、長い時間をかけ、派手な光や爆発と共にやっと小さな魔法がかかる……そんな時代錯誤な魔法に、若者たちは意外な観点から価値を見出していた。

「だって、派手な魔法は《映える》じゃないですか」

筆者がインタビューした王立アトス大学2年のリリーナ・アイビィ(仮名)は、そう言って鉱石型スマートフォンの画面をスクロールしてみせた。流れていくのは鮮やかな光や色をまとう、害も益もない魔法と笑顔の若者たちの写真。

「これは先週末、友人と一緒に撮りました。花の精霊を呼び出す魔法なんですけど、ほら、魔法陣から既にカワイイじゃないですか」

精霊のつかさどる植物をかたどった魔法陣を、その花の色のインクで描いていく。確かに面倒だが、過程からして美しい魔法ではある。

「多少めんどくさくても、綺麗な魔法は使ってみたいし、友達みんなで協力して何か一つの魔法をかけるのって楽しいです」

魔法をかける過程から写真に残し、SNSのMapitterや、Toristagram(写真投稿中心のSNS)に投稿するのだという。

奇妙なきっかけではあるが、古典魔法に若い世代が価値を見出したという事は貴重な事象である。今後は学問の分野でも何か新しい発見が期待できるだろう。

 

進まぬ改善 ついに始まったグリフォン便のストライキに迫る(追記あり)

現代の魔法界に欠かせない郵送手段となったグリフォン便。

そのグリフォン便を扱う日本の魔法郵便局で先日、労働環境の改善を求めるストライキが打たれた。

同サービスは便利さと手軽さで年々利用者が増加しており、ストライキによって各所に影響が出ている。それでもストライキが止まらないのは、以前『日刊森のアナグマ』で報じられたように、労働環境が過酷すぎるためだろう。

日刊森のアナグマ グリフォン便の今に迫る。

「グリフォン便労働組合」の声明によると、具体的な改善案が提示されるまでストライキを続けるとのことだ。

近日中に私は日本の魔法郵便局とグリフォン便に従事する人々のもとへ赴き、両者の言い分を聞きに行きたいと考えている。

願わくばこのストライキから、よりよい魔法郵便の形に繋がっていくことを望んでやまない。

2018.8.2

追記(2018.8.11)

グリフォン便に従事する騎手とグリフォンたちのもとへ取材に行ったものの、剣呑な雰囲気にあてられたグリフォンたちに蹴り飛ばされつつき回され、全治半年の病院送りにされた。

騎手の方々がうまく抑えてはくれたようだが、“自分たちは本気だ”と理解させるための贄とされたようだ。

読者諸兄、覚えておいてください。グリフォンキックはやばい。

用心して対衝撃魔法のかけられた革衣を着ていたのだが、鋭い爪痕が衣と記憶に深々と刻まれる結果となった。「それがなければ自身の背中をじっくり見ること」になったとは主治医談。

追記(2019.2.2)

怪我が治ってようやく自分の仕事机に戻ってみれば、半年前の取材記事が残されたままであった。

どうやら去年の夏の魔力嵐による遅延魔術の暴走が原因で当社の時間も進まず、世に出されぬままになっていた模様。すでにストライキは収束しているものの、再びグリフォンに蹴られて病院送りにされるものがいないように世に出しておく。

余談ではあるが、久しぶりにペンを持てばグリフォンのくちばしを思い出してしまい、字がのたうつ蛇のようになった。フクロウ便のフクロウにさえ一瞬身構えてしまう。しばらく鳥類への取材は控えておこうと思う…。

打刻遅延魔術疑惑のブラック結社を摘発 2次被害多数か

ここ数年間増加し続けているブラック結社に対し初の摘発が行われ、各方面より期待の声があがっている。

秋の訪れを感じる9月のこの頃、中央魔道局はかねてよりマークしていたヤマトのブラック結社「刻意」を打刻魔術改ざんの疑いで摘発した。

「刻意」は食品の保存容器などに使われる擬似時間停止魔術を開発し業界最大手とされていたが、以前から過酷な勤務体制のブラック結社として有名だった。

3年前から魔術結社に義務付けられている打刻魔術により、勤務時間をはじめとする勤務体制の問題が明るみに出ると思われていたが、「刻意」の記録に一切の不備はなく、退勤時間を調査しても通常の時間で業務を終了していた。勤務体制の実態は社員からの告発に頼るのみであったため、確実な物証を持たない中央魔導局は手を出せなかった。

ではなぜ今回摘発に成功したのか? それは先日発生した夏の風物詩、魔力嵐に原因がある。

魔力嵐は術式をかき乱し誤作動させてしまう性質があるため、この時期は結社も休みになることがほとんどなのだが、「刻意」は秘密裏に業務を敢行。その結果、打刻魔術にかけていた遅延魔術が魔力嵐によって暴走し、周辺の事物へ影響を及ぼしたことで打刻魔術改ざんが明らかになった。

遅延魔術の正体は、彼らの扱う擬似時間停止魔術の応用魔術。社内にかけることで時間の流れそのものを止め、その間業務を行っていたことが判明している。

中央魔道局は他にも類似した手法を用いている結社があると考え、近く一斉摘発を行う予定であると発表した。

なお、遅延魔法の暴走により近隣の結社、媒体、存在の時間が停止している可能性があり、中央魔道局は注意を呼び掛けている。

追記:いつの間にか2月になっていたの、これじゃん

巨大すぎる数の巨大さを直接”理解”し一時意識不明、事故か

78週15日夕方、フィレワ北部ノロクディリ地区で、AMMA(Automatic Magic-based Mental Arithmetic、自動魔力暗算)を使用し、“ハブラーワ数”の計算を行おうとしたエルフが一時的に意識不明になった。エルフは同地区の病院に搬送され、現在は回復している。

AMMAとは、魔力を介して脳のリソースを使用し、自動的に暗算を行う連鎖実行的魔法群、およびその魔術ライブラリ。従来の電子計算機などに比べ、魔力という比較的曖昧な量を介して計算を行うことで計算の厳密さを下げ、概数での計算を可能にしつつも、暗算以上の正確さや高速さ、そして電子計算機以上の「利用しやすさ」「思念との一体性」を実現できるのが特徴だ。

新しい魔導技術に比較的抵抗の少ない若い世代を中心に広がりを見せ、一部の中等学校でも教育に用いられている。

今回のケースは計算によって脳のリソースを急激な速度で消費し、またあまりにも巨大すぎる数を直接”理解”しようとした負荷の複合的な要因による失神であったとみられるが、エルフは軽症であり翌日には回復した。使用されたAMMAは、公式に配布されている標準的詠唱/無詠唱魔術ライブラリのものと異なっていることが分かっている。魔力消費量等の制限を外した独自の改唱が施されていたとみられ、事故の原因とみて詳しく調べている。

エルフが計算しようとした「ハブラーワ数」とは、近代の小説家ハブラーワ・クラフ・スラユァータ(Hablurwa Khrah Slujyahta)が執筆した小説『星の梺』に登場する占いで現れる数。

5×5マスのチェスボードの1マス目に1桁の(基本的には2以上の)数で最も好きな数を書く。2マス目には『1マス目に書いた数』桁の数の中で最も好きな数を、3マス目には『2マス目に書いた数』桁の数の中で最も好きな数を、と順々に書いていく。さて、チェスボードは5×5=25マスあるわけだが……25マス目の数字で未来を占おう。

──『星の梺』より抜粋

あまりに大きな数字になってしまうため、この小説では占いを行うことなく即座に終了してしまう。しかし、この占いを取りあげた記事が話題となり、25マス目に現れる数が“ハブラーワ数”として知られることとなった。実際に計算しようとする場合、おおむね10^10^10^…(25回続く)…^10となる。

公式に配布されているAMMAもかなり大きな数が扱えるが、ハブラーワ数のような巨大数は一般的に想像が可能なレベルの数と比較にならないほど大きすぎる。そのため、数そのものによって脳の計算能力や思考能力、リソース等が、通常考えられないほど使用される。このことによって引き起こされる同様の事故は数年に1回程度起きている。

一昨年には2名がAMMAであまりに複雑すぎる再帰計算(ある計算内で、その計算そのものを参照して計算すること。複雑な計算タスクを引き起こしやすい)を扱おうとしていずれも失神、転倒し軽傷を負った。また、1277年には1名が意識をなくし、そのまま亡くなっている。どれも主に魔力の使用量制限を外す改唱が施されていたとみられており、魔技庁は注意を呼びかけている。

ノロクディリ国立大学で数理・アルゴリズムを研究しているルーボ・クラトゥー教授は、「魔法というのは知っての通り、思念によって既存の物理を超越できる非常に便利なもの。だからといって、必ず安全であるとは限らない。AMMAという例ひとつでもそうだが、魔法は使い方を間違えたとき、必ずその刃が誰かに刺さることになる。この事故を反面教師に、特に独自の改唱を行って安全性が確保されていない魔法の使用に際しては、もっと責任感を持つよう考えるべきだ」と話した。