電子・量子回路のみによる魔素の生成を世界で初めて確認

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

「生命」と「模倣」の溝が徐々に埋まり始めようとしているのだろうか。

122週4日、イルヴァディナ地方・キョダム・Cのセオデック魔導機構研究所から発表された新しい発見に学界が震撼した。
その内容は「魔導素子を使用しない高集積度電気回路及び超並行量子計算機による魔素の生成:有意な量の想度上昇を初めて検出」というものだ。
やや難しい論文名になっているが、つまりこれは魔導素子(※)を一切使用せず、電気で動作する電子集積回路(電気回路)と、量子もつれ等の現象を用いて効率良く計算を行う量子計算機の一種のみによって、そこから新しい魔素を生成したという内容のようだ。
論文内では、これらに並行して模擬ニューロン、電子記憶シナプスなどを使用したと述べられているが、それらも電子回路の一種である。
検出された想度は5.6×10⁻¹⁶[Kir]程度の上昇であったと述べられており、これは一般的な魔導励起閾値の実に2億分の1と非常に低い想度であったとされているが、それでも魔素の生成に違いはない。
ちなみに魔導装置や魔導家具など、一見生命を介在しない魔法の発生に思える装置も存在する。しかしそれらは魔導素子を利用した装置や、製造過程での魔素貯蓄を元手に、テラリウムのようにして稼働している物が大半である。

(※魔素で駆動し、新たな魔素を生成したり、魔素を使用して高い想度を生み出したりする素子。「無から有」を生成する事は原理上不可能であるとされている)

古くから、人間やエルフをはじめとしたあらゆる生命(正確には”魂”が寄与すると考えられている)が介在しない状態では、魔素の生成は一切起こり得ないとされていた。
また、1381年に魔学者カルニコ・ノベンバードによって、「非常に精巧な『生命のエミュレート』であれば、理論的には魔素の生成が起こり得る」ことが発表されていたが、実際にそういった環境での生成は確認されていなかった。
そのため、論文の内容を第三者が確かめる追試の結果を受け、この発見が正しいものであると確認されれば、魔術の教本が書き換えられることになりそうだ。

肯定的な説では、これまでの仮想生命はある種の”模倣度”が低すぎたためであり、それらがより生命に近づけば、いずれ魔素の生成が起こるのではないかと予測されていた。
しかし同時に、それは新たな生命や魂といった物を作り出すことに間接的に繋がっており、禁忌に触れるのではないかと危惧されていた面もある。
そのため論文の発表を受け、一部の有識者や宗教団体からは「そもそもこの発見が真実であるのかどうかに加えて、歓迎すべきかそうでないのかもまだ分からない状態だ」といった声や、「この実験は、とてもとても小さな”魂”を電気回路内に生み出したということに等しい」「倫理的には到底認めがたい実験だ」「神への冒涜として受け取らざるを得ない」という反発も寄せられている。
セオデック魔導機構研究所所長、及び本論文の著者チームリーダーのリュバリワイ=グトー・レピュニフ博士は、「論文は現在追試を待っている状態ではあるが、もしこの発見が正しいものであれば、実に260年以上ぶりの大変なブレイクスルーであるし、私としてはそうであると信じている。それはとても光栄であり、家族や関わった全ての方に感謝したい」
「電子回路が自らの『意思』で魔法を使うようになる時代もいずれ来るのかもしれない。本発見の魔素量からすれば(そのような時代に至るまでの道のりは)まるで”イーサ・ロードをヘムラマイマイ(カタツムリの一種)が歩き切る”ようなものだが、我々は確実にスタートラインを踏み出したのだと考えている」「倫理・理論の両観点から、より正確に、どういった事象が起こっているのか、今後確認を進めたい」とコメントした。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocket
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*