整形魔術へ使用許諾 解呪までの期間に限定

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失われた体の一部を、誰でも取り戻せる時代が来るのかもしれない。

先日、フラウジア医療魔術研究所が開発した新しい医療魔術へ限定的に使用許可がおりた。呪いによって治療魔術を受けられない人々のために開発されたもので、患者の体の一部を本物そっくりの代用品で補うというもの。外耳や鼻、四肢などの欠損に対し使用する。

代用品で補うため、体そのものを元通りにする医療魔術とは違う分野となる。フラウジア医療魔術研究所は、今回の新魔術を「整形魔術」と命名している。

整形魔術の臨床試験は、患者にかけられている呪いが解呪可能なものであること、呪いがとけるまでの期間のみ代用品を使うことなどの条件を満たした患者へ、本人の同意を得て行われる。

呪いによって治療を受けられない人は、政府の調査で判明しただけでも200万人を超える。差別意識の強い地域では、いまだに被差別種族が奴隷的な扱いを受け、種族の特徴的な部位を切断される事例が後を絶たない。

そういった傷は呪いを付与した刃物で負わされることが多く、解呪にかかる期間も長い。短命種族は治療を受けられないまま寿命を迎えることも多かった。代用品とはいえ体の一部を取り戻せる整形魔術は、心身ともに傷ついた人々の救いの手になる。

エルフ族のFさん(仮名)も、整形魔術の完成を心待ちにしていた一人だ。

「個人の素質にもよりますが、呪いをとくためには平均して300年もの時間がかかります。短期間での解呪には多くの魔術師と魔力が必要になり、その分高額。整形魔術は呪いをとけないたくさんの人に必要なものです」

そう語るFさんは、インタビューの際も深くフードをかぶったままだ。170年前、呪いをおびたナイフで耳を切断されてから、フードつきのマントやケープが手放せなくなった。

「傷さえきれいに塞がれば、見た目は人類種の耳とあまり変わりはありません。切られる前は邪魔だと思ったこともありました。ですが、長い耳を失ってから、自分がいかにエルフ族であることに誇りを持っていたのか自覚したんです」

あるべきものがないことが恥ずかしい──それは、Fさんと同じ経験をした多くの人々が感じるという。

先述の調査では、呪いをとけていない人の8割近くが「他人の視線が気になったことがある」と答えた。また、「人目を避けるようになった」「家の外に出る回数が減った・出なくなった」と答えた人は半数を上回った。

Fさんの場合、解呪にはまだ200年近い時間が必要だ。すでにフラウジア医療魔術研究所へ臨床試験について問い合わせ、今は認可された病院の医師と治療に関する打ち合わせを進めている段階だという。

「代用品であっても、もうすぐ長い耳を取り戻せるかもしれないと思うと心が軽くなります。悩んでいる人が一人でも多く治療を受けられるようになってほしい」

整形魔術は試験段階のため、解呪の見込みがある人しか治療を受けられない。解呪の時間が寿命より長くなってしまう種族は、エルフ族など長命種族の臨床試験を経てから整形魔術を受けることになる。

フラウジア医療魔術研究所はこの問題について、「一人でも多くの人を救うため、また可能な限り医療事故を防ぐため、一般化に時間がかかってしまうことを理解してほしい」とコメント。

整形魔術の歴史は、まだ始まったばかりだ。

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