日刊森のアナグマ 「鳴る記憶」とは? オルゴール型記憶封入魔具に迫る

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鳴る記憶、オルゴールのメロディの裏にいる人物とは?

魔法使いは時に、大切な物を箱にしまいこむ癖がある。読者の皆様の中にも心当たりがある人がいるだろう。

大切な物とはいうが魔法使いにおいてそれは物体だけには留まらないのは公然の秘密というもので、それは「色」だったり、「魔法」そのものだったり、時には「魂」のようなものまでさまざまである。もちろん魔石だったり、魔法の杖だったりもするが……

(ちなみに、最後の「魂」を箱に入れたものは、魔法省が禁じるところの“分霊箱”なので、皆様は御隠しにならないようご注意を。)

そういった大事な物を隠す箱──箱と言っても形は箱とは限らない──これを魔法省は「封入器」、もしくは「封入魔具」と呼んでいるが、この頃「オルゴール型の封入魔具」の存在が世間を騒がせているのはご存じだろうか?

「鳴る記憶」、メモリーオブメロディと呼ばれているそれは、手のひらサイズの木製の箱に入ったオルゴールで、ふたの裏にどこぞの魔女のものと思わしき刻印が一つ付いている以外は、開けるとシンプルなメロディを奏でるなんの変哲もないただのオルゴールである。

だが、一点、“オルゴールから鳴るメロディを聞いたものに記憶を付与する”という特性が、“自鳴琴”から“封入器”へと名称を変えさせているのだ。

付与される記憶はオルゴールのメロディによって違い、一つとして同じメロディは見つかっておらず、世界の各地で見つかっている。

このオルゴールが最初に発見されたのは、なんと魔法省の違法魔具取締局に在籍する、ある職員のデスクからだった。

不審に思った職員の一人がオルゴールを開いたところ、そのメロディを聞いた人間すべてに対し、そのデスクで作業をしていた職員が裏で不正を行っているという記憶が付与されたのだ。

本人に問いただしたところ、数年前に遡って定期的に不正を繰り返していたことが発覚し、またある一部の不正の記録が本人の記憶から不自然に抜けていたことも発覚した。

何故オルゴールがそこにあったか、誰が置いたか、なにかもが不明な不明瞭極まるこの事件。この事件の最も恐ろしい所は、魔法省受付の数人と、魔具取締局にいた全員の“オルゴールが発見される数分前”の記憶が抜けている、または不鮮明だということだ。

これが真実ならば、オルゴールを置いた人物は真正面から魔法省に入り、違法魔具取締局に行き、オルゴールを置いた後、自分を見た全員の人間の記憶を抜き去ったということになる。

他人の記憶を封入器に入れることは、魔法省において犯罪行為に該当するものであり、またそれ自体が高度な魔法使いでないと為せぬ技である。今回奪われた記憶はどこかのメロディとなって響いているのだろうか。

そして、何故魔法生物についての記事が専門である私が、この記事を書いているのか? と疑問に思っている読者のために説明するのであれば、それは「鳴る記憶」の名前が知られるようになった頃、私宛に一つのオルゴールがフクロウ便で届いたからである。

題名は数か月前の日付と共に「またお会いしましょう」とだけ書かれているが、私はこれが一体なんなのか全く記憶に無く、そもそもその日はグリフォン便の取材で誰とも会っていなかったはずなのである。

ただの悪戯か、私が覚えてないだけか、それとも本当に記憶が抜かれているのか、私はオルゴールの蓋をいまだに開けられずにいる。

今日送る一言は、2400歳の上のエルフ、エレンディエルが昔の事を聞かれた際に決まって言う言葉から抜粋してこの記事を閉じたいと思う。

記憶というのは氷のようだ。どんな形であれ溶けてなくなり、蒸発して何時しかそこに氷があったという事実さえなくなっていく。

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