面接マナー講座 魔法使い編

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今年も就職活動の季節がやってきました。

これまで覚えた魔法を、どんな仕事に活かそうかと期待に胸膨らませる新米魔法使いの皆さん。どんな進路を考えておいででしょうか。

狙うは魔法省ですか? それとも近衛術師団?
敢えて小さな魔女の薬屋で活躍? もしくは路地裏の呪い師?

しかし――毎年、多くの新米魔法使いが、進路選びに失敗します。

王立星読院を目指していたのに、プールの監視魔導師になってしまったり。
医療魔導師になりたかったのに、気付いたら人型植物の剪定士になっていたり。
ひどい場合だと、魔術漁師の資格を取った筈が、異界潜航員として潜界艇に配備されてしまうなんてことも。

皆さんこんにちは。メンタル魔法士のパスタ・スヴァミソーニです。

就職、大事ですよね。せっかく魔法を身に着けたのだから、自分の魔法にあった就職先を選びたいところ。しかし魔法使いの就職には、往々にして悲劇がつきものです。

どうして魔法使いは進路選びに失敗してしまうのでしょうか? 答えは簡単です。魔法使いの大半は、面接で負けてしまうのです。

面接の基本

面接――進路選びにおいて避けては通れない関門です。

魔法の実力さえあれば、認められると思っていませんか?
黙っていても、面接魔導師が自動的に気持ちを読み取ってくれると思っていませんか?
残念ながらそんなことはありません。

面接は戦いです。

言語的な対話を隠れ蓑にした真剣勝負。それが魔法使いの面接です。

「はじめまして」の一言と共に形而上の仮想空間には電撃が飛び交い、「本日はよろしくお願いいたします」の声と共に非実体質量が爆発し、名前を名乗った瞬間から真名をかけた呪術的対決が始まっているのです。

もう一度言います。魔法使いの面接は戦いです。
隙あらば面接官を全滅させる――最低でも、面接官一人は討ち取る気概で挑みましょう。

入室で差をつけろ

「待合室の時点で面接は始まっている」というのは有名な話です。
もしも同じく面接を受ける新米魔法使いがいるならば、密かに連絡を取り合い作戦を練りましょう。複数人でかかることができれば、面接官の首級はぐっと近づきます。

とはいえ、新米魔法使いが結託して襲ってくることくらいは面接官も想定済み。たいていの新米魔法使いは個室に隔離され、個人戦を余儀なくされます。

そこで大切になってくるのは、入室時のマナーです。
入室は、面接において唯一無二の奇襲のチャンスです。

ノックの回数で呪いをかけましょう。ドアノブに触れた瞬間に魔法陣を這わせましょう。ドアを開ける動作で霊を降ろしましょう。そこまでやって最低限です。
可能であれば、入室前の段階で仮想空間の占有率を圧縮し、対面した瞬間に形而上の主導権を完全に握るつつもりで挑みましょう。もちろん、現象世界では笑顔を作ることは忘れずに。

もしも入室前の段階で、面接官がトイレに立つなどのことがあれば千載一遇の好機です。必ず闇討ちして、頭数を減らしておきましょう。とっさの対応力が問われるところです。

属性魔法は時代遅れ

自己アピールで、得意な属性魔法をアピールする……魔法使いの面接ではよく見る光景です。火属性が得意な人は火球魔法を披露したり、風属性が得意な人はかまいたちを披露したり。

ですが、残念ながらナンセンスです。
何度でも言います。魔法使いの面接は戦いです。

自己アピールは、形而下の現象世界で攻撃を仕掛けるチャンスなのです。

もちろん、物理的に面接官を傷つけてしまうのはマナー違反。自己アピールを装いつつ、形而上での布石を打つのがスマートなやり方です。
最も簡単なのは、「闇属性魔法が得意です」とアピールしつつ、面接官の心の闇に侵入する方法です。面接官の精神防壁が薄ければ、そのまま過去のトラウマを刺激して心を破壊してしまいましょう。

あるいは、「召喚魔法が得意です」とアピールしつつ、自分にとって有利なフィールドをまるごと召喚してしまうという手もあります。例えば観客ごとライブ会場を召喚して、単独ライブに持ち込むのは有効です。
ほかにも面接官の足元に「意味論的落とし穴」を召喚し、精神そのものを落としてしまう方法もおすすめ。召喚魔法は創意工夫次第で様々な利用法があります。自分だけの殺意を研ぎ澄ませましょう。

逆質問こそ最後のチャンス

面接の最後には、面接官が「何か質問はありますか?」と聞いてくることがあります。所謂、逆質問タイムです。

入室から自己アピールまで、うまく面接官と形而上で戦いを繰り広げていれば、お互いの精神は極限まで疲弊している筈。もちろん、より早く仕留められればそれに越したことはありませんが、逆質問は面接官を刈り取る最後のチャンスです。

よく知られている通り、現象世界における行動の表象は、形而上の仮想空間にも大きな影響を及ぼします。逆質問タイムはその表象のために、言語行為の主導権が完全に新米魔法使い側に移ります。面接官の論理防壁が極限まで薄くなる機会が、逆質問の時なのです。

「仕事で一番やりがいを感じたことはなんですか?」など、適当な質問を口にしましょう。この時、質問自体は適当で構いません。重要なのは、その後です。

面接官が正直に答えたならば、「私の質問に答えた」という表象を利用して、形而上空間では面接官の真名を引きずり出しましょう。形而下で正直に答えている以上、形而上世界で嘘をつくのは難しいのです。
面接官が嘘をついたならば、「私に嘘をついた」という表象を利用して、形而上空間で論理攻撃を仕掛けましょう。表象に絡みついた嘘という罪により、面接官の防御力が極限まで落ちている筈です。

ここで逆質問がうまくいけば、必ず面接官を倒せます。最後まで諦めずに戦いましょう。

まとめ

  1. 面接は戦いである
  2. 入室の段階で奇襲をかけろ
  3. 自己アピールで布石を打て
  4. 逆質問でトドメを刺せ

なお、今回の面接講座は新米魔法使い向けです。
戦士ギルド加盟各社への志望者や、エルフ族やドワーフ族では作法が全く異なってきますので、ご注意を。

[著者プロフィール]
パスタ・M・スヴァミソーニ
王立アトス大学錬金経済学部卒。3年前に株式会社スーパーナチュラルリサーチを設立。現在は魔法コンサルタントを兼務。座右の銘は「アジェンダを錬金術でマネタイズ」。

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