いよいよ来週から、第9回 現代アート展『~ 強制? 矯正? 共生? ~』が王立第一美術館西棟にて開催される。
今回は一足お先にプレスカンファレンスへの招待状を入手できたので、僭越ながらそのご報告をば。
まずはアエム・ルレルダダリア・トーランス館長のご挨拶から一部を引用させていただきたい。
“われわれは過去、自分たちの利益を追求するため、他の種に対して暴力を以てなにかを強制したり、あるいはその本来の在り方を矯正したりしてきました。その過程で絶滅させられた種や、今まさにその危機に瀕している種も多数あります。しかしそれは正しい姿勢ではなかったと堂々と言い切れるようになったのはわれわれの長い歴史から見ればごく最近のことであり、完全なる達成にはまだまだ程遠いと言わざるを得ません。今期の展覧会ではそうした問題意識を共有する17種族、41組のアーティストからお寄せいただいた計58作品を展示しております。”
この日プレス公開されたのは、そのうちの4作品だ。
1階メインホールで館長のご挨拶を頂戴した後、全員に配布されたガイドペンダントを首またはそれに相当する部分に掛ける。
今回は展示の性質上、作品へ/からの投影・汚染を防ぐ魔力遮断機能が通常より高く設定されている(レベル5相当)ので、延命魔法を常時使用している場合などは受付にて申告されたいとのこと。
さあ、それでは以下に作品のレビューを開始しよう。
門外漢ゆえ、ご笑覧いただければ幸甚である。
以下、作品の核心に当たる記述には認識遮断魔法を使用する。必要に応じて解呪願いたい。
さて、最初に目に入るのは、メインホール奥に描かれた5つの小ぶりな魔法陣とその手前の水晶球だ。
それぞれの中央には成人ヒューマン男性の握りこぶしほどの石のようなものが設置されている。
近づいてゆくとペンダントから音声が流れた。
≪ 魔力を注いでゴーレムを育ててください ≫。
そう。これは性質の異なるさまざまな来場者の魔力を掛け合わせて5体の魔鉱石ゴーレムを生成しようというインタラクティヴ・アートなのだ。
さっそく水晶球に手を当てて精神を集中させてみると、さらに音声が続く。
魔法陣が魔力の流れを整えてくれるので来場者にはゴーレム生成の知識やスキルは要求されないこと、魔力量の多寡に関わらず参加できること。
ゴーレムたちは会期終了10日前に完成するよう調整されており、さらにそこから10日間かけて、館内を自立歩行しながら徐々に自壊すること。
うまい言葉が見つからないが、なんとも罪深い気分にさせてくれるではないか。
作品名は『 あなたの5体のゴーレム 』。
続いて順路に沿って左手の階段を上り、2階の第1展示室へ。
数十体の黒曜の像が、まばらに間隔を置いて立っている。
ヒューマン、エルフ、ドワーフ、四つ足のもの、毛の生えたもの、翼あるもの、立派な角を持つもの、大きなもの、小さなもの。
一体一体、別の種族を象ったもののようだ。
≪ わたしを抱きしめてください ≫。
像の間を縫って見て回っていると、再びペンダントからのささやきが耳をくすぐる。半ば無意識に自分と同じ種族の像を探す……が、見当たらない。わたし以外の種族の像はほとんど揃っているようなのに。
そのとき、一緒に来ていた他社プレスのつぶやきをわたしの耳がとらえた。
「これほどあるのに我らエルフの像が、エルフがないではないか」。
目をやると『エルヴン・アリストクラティク』誌の壮年記者が小声で憤慨していた。
一瞬置いてわたしは作品の意図を理解してそのとき目の前にあった不死者の像を抱きしめ、同時に見識の狭さを恥じたのだった。
作品名は『 わたしを抱きしめて 』。
続いて隣の第2展示室へ。
部屋の内周に沿って並べられ薄暗くライトアップされているのは、色とりどりのフリルやリボンで少女趣味過剰気味に飾られた、オブジェ、だろうか。
いや、それは。
正体に気づいて、背筋を冷たいものが走る。
赤錆に覆われた、大小さまざまの拷問具。
≪ 『 女神のおもちゃ 』 ≫。
その部屋で唯一なされたささやきが、その作品名だった。
余韻冷めやらぬうち、言うがままに案内されていくつかの入り口を素通りする。
そして第15展示室、『 いと高き塔 』。
これについて、わたしは語る言葉を持たない。かつてない形式の体験型作品なので、ある程度お時間に余裕を持ってここまで辿り着かれるようお勧めしたい。
いかがだったであろうか。
作品数が多く1日ですべてを堪能するのはまず不可能なボリュームだが、紹介させていただいた4作品以外にもさまざまな趣向を凝らした傑作が集まっているであろうことは想像に難くない。ぜひご自身の目で、耳で、全身で、体感してみてほしい。
会期は来週から約2ヶ月。夜間開館期間もあるため、日光がお嫌いな方も訪れやすいだろう。
最後に再びトーレンス館長の言葉を引いてこの記事を終わりたい。
“歴史とは、必ずしも輝ける友好の軌跡などではなく、むしろ敵対と侵略とによって蹂躙された荒野であります。しかしわれわれとあなた方は、それを切り拓き、共に生きることができる道をいまようやく探り当てることができたのです。まだその道は細いものです。これから慎重に、粘り強く、舗装をして広げてゆかなくてはならないでしょう。ですがその先にある、すべてのものたちが侵すことも侵されることもなく在れる世界こそが、アートの目指すべき到達点でもあるのです。この『現代アート展』が、少しでもその助けになるよう願ってやみません。”