サラマンダーの鱗入手法、簡略化に成功 王都大

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火の中に棲むトカゲ、サラマンダー。その鱗は硬度と魔力容量に富み、魔法器具の原料としては最上級の性能を誇る。しかしながらその生育環境と好戦的な性格から、手軽な方法で鱗を入手するのは非常に困難であるとされてきた。

このたび王都大学の魔法生物研究チームにより開発された手法では、これらの難点を解消した上に、従来の十分の一の時間で鱗を手に入れることができるという。

研究チーム副リーダーのヴェルディ氏に話を伺った。

「古来より、数多くの魔法使いたちがサラマンダーから鱗を引き剥がすことに腐心してきました。サラマンダーは非常に扱いの難しい魔法生物です。防火魔法のかけ忘れにより命を落とした魔法使いは星の数ほど存在します。また、大きな個体ほど凶暴性や魔力耐性も高くなり、それだけ鱗の入手も困難となるわけです」

サラマンダーの鱗にはいくつかの入手法がある。まず、もっとも古くから存在するのが『リッツ法』で、小さな焚き火の中に閉じ込めたサラマンダーを耐熱杖で引っ掻きまくり、鱗を剥がして拾い集めるという方法だ。

頑丈な鱗であるがゆえに、この方法で獲れるのは二日に一枚。おまけに小型のサラマンダーにしか適用できず、怒り狂ったサラマンダーが炎とゲロを吐き散らすことがあるなど、あまり効率的であるとは言えない。

現在もっとも有効な方法は、上記の『リッツ法』をグレムリンが改良した『リッツ – グレムリン法』である。サラマンダーに強い『痒み呪い』をかけて自ら床に体を擦り付けさせ、剥がれた鱗を入手するという手法だ。

リッツ法に比べて安全で確実だが、魔力耐性の強い個体には痒み呪いが効かない、魔法生物愛護団体の反発により大規模な生産が難しい、などの難点がある。

では、今回の新手法とはいったいどのようなものなのだろうか。

「従来の方法でサラマンダーの鱗を奪い取るのには限界があります。それならばサラマンダーを手懐け、自分から鱗を差し出してくれるように仕向けることができればいいのではないか。この手法はそんな発想の転換に基づいています」(ヴェルディ氏)

サラマンダーは凶暴だが、実は知能指数が非常に高い。長く生きた個体なら人語を解するという噂もある。そんなサラマンダーを都合よく手懐けることが、本当にできるのだろうか。

「手懐けるというには語弊がありますが、要はサラマンダーと心を通わせるのです。具体的には、愛の言葉を囁き続けます。サラマンダーが人語を理解できずとも、言葉に込められた愛情は伝わりますから。

『君、カワイイね』
『その鱗、すごく綺麗だ』
『つぶらな瞳だね。吸い込まれそうだな』

これを三日ほどぶっ通しで続けると、やがて愛の言葉を聞かされ続けたサラマンダーが一種の催眠状態に陥ります。そこで『君の鱗が欲しいんだ』と囁いてやれば、自ら鱗を剥がして差し出してくれるのです。これならサラマンダーを無闇に傷つけることなく効率的に鱗を回収することができます。個体の大きさや魔力耐性に関係なく適用できますし、危険も少なく、一日に四枚以上の獲れ高が見込めます。将来的には大規模な運用も可能でしょう」(同前)

確かにこの研究が発展すれば、貴重品だったサラマンダーの鱗が入手しやすくなりそうだ。実用化に向けて、今後はどういった実験をしていく予定なのだろうか。

「今は、音魔法で録音した愛の言葉を延々と聞かせ続ける実験に取り組んでいます。これが成功すれば、一度に大量のサラマンダーから鱗を回収できます。ただサラマンダーの健康状態に影響を与える可能性もあるので、そこは慎重な実験と観察が必要ですね。

あっ、そうだ。今回の実験で三日間不眠不休で愛の言葉を囁き続けた助手のエルマー君が精神を病んでしまったんです。突発的にサラマンダーの巣に飛び込んだあと一向に行方が知れません。たぶん餌になったんでしょう。というわけで、代わりの助手を募集しています」(同前)

私は礼を述べ、研究室を後にした。

サラマンダーの健康より先に、研究員の健康を心配すべきではないのか。私が抱いた不安は、偉大な研究に目を輝かせるヴェルディ氏の前ではきっと些細なことなのだろう。

研究の発展と、エルマー氏の冥福を祈る。

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