その名は、神の供物

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王立魔法生物学研究所(王魔生研)の朝倉です。

事実は小説より奇なり、という言葉を聞いたことはありませんか?

人が想像し得る限界は、その人が知りうる知識の限界に等しく、頭を固くしていては真実を見詰めることなど叶わないという、我々研究に携わるものすべての教訓となっている言葉でもあります。

さて、今回は知られている中で、最も巨大な魔法生物について紹介します。

それは魔界や天界を旅し、様々なものと触れ合った詩人、ヴィンセントの叙事詩で題材の一つにもなった神の供物と呼ばれる”暫定”魔法生物です。

もし、この暫定魔法生物が真に魔法生物であると認定された場合、Expansio infinitusという学名になりますが、まず、この神の供物がどんな魔法生物であるか、判明させなければなりません。そのため我々、王魔生研の研究チームは何度となく、このE. infinitusの研究を続けてきました。

E. infinitusは、この世界を支える土台の一部とされています。

世界の果てに住むドラゴンなど、困難ではあるものの地続きで遭遇可能な魔法生物とは異なり、E. infinitusは、魔界に渡り異界の門と呼ばれる危険地帯の中にある我々の世界の土台に繋がる門がある場所に到達する必要があります。

そもそも世界の土台に繋がる門の先は、我々の世界の土台に繋がっているとされていますが、詳しいことはわかっていません。魔法探査を行うと、概念上我々の世界と繋がっていることが確認できるそうですが、そもそも我々の世界の土台という場所がどこなのか、という議論は様々な研究者の頭を悩ませる問題でもあります。

さてこの世界の土台に繋がる門から、無限に増殖し続ける肉塊がはみ出しています。

それが神の供物と呼ばれるE. infinitusです。そしてE. infinitusの周りに常にいるウナギのような魔法生物 (Gluttoanguilla transcendentia) が、E. infinitusを延々と食べ続けています。このG. transcendentiaは、虚無に繋がる異界の門を巣穴として体の大部分を隠しているため、全長が不明であり、また、その生態も謎に包まれています。G. transcendentiaの全長は不明なものの、成体のG. transcendentiaの頭長は約100メートルもあり、かなり長大な魔法生物であると考えられています。見えている部分の体表は、粘液に濡れ、はっきりとしたウロコなどは持っておらず、また、手足も確認されていません。

そしてG. transcendentiaは、常に十数匹がE. infinitusに群がっており、時折、数匹が新たなG. transcendentiaと入れ替わることが報告されています。

実は、このE. infinitusの一部を王魔生研では保存しています。

わずか1センチメートル立方のE. infinitusの一部を、灼熱の檻によって焼き続けることで増殖を抑えています。研究に用いる際は、その用途を十分に明確にした上で、神の供物の一部を切り取って実験します。

その結果、E. infinitusの一部は平均して2時間で倍の体積に増殖することがわかりました。また、外からの栄養もなく巨大化し続けているのは、E. infinitusはどれだけ極小に分断しても魔術的にすべてが本体と繋がっているため、ということもわかりました。

このE. infinitusをさらに切り分けた一部をネズミにエサとして与えると、摂餌後、ネズミは約12時間で2倍の体サイズになりましたが、その後の急激な成長に耐えられないということもわかりました。このことから、E. infinitusを食べ続けるG. transcendentiaは、古代魚や古龍などと同じように生き続ける限り成長を続ける種である可能性が高い、と考えられました。

そして一番重要な発見は、おそらく異界の門からはみ出し続けているE. infinitusは何かの生物の腸管壁の一部である可能性が高いということです。

かつては自然に発生したフレッシュゴーレムの可能性も示唆されていたため、現在でもまだまだ暫定魔法生物として扱われるものの、ミクロスケールの観察や魔術的な解析から、フレッシュゴーレムに必要ないくつもの魔術の残滓が確認されず、フレッシュゴーレムの可能性が極めて低いことが判明しています。

つまり神の供物自体が魔法生物というわけではなく、E. infinitusの腸管壁を神の供物と呼んでいた可能性が極めて高いのです。そして研究が進んで、E. infinitusがどのような魔法生物か明らかになったのち、正式にExpansio infinitusとして、登録される見込みです。

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