コラム:古代呪文を読み解く【第1回】ゼンベイガナイタ

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何をどうすれば、他者の興味を引けるのだろうか。

ものづくりに携わる者であれば、一度は考えたことがあるのではないだろうか。

価値を理解してもらえる唯一に出会うだけでもいい、という方もいるだろう。

しかしその”唯一”に出会うためにも、大勢の元へ届けなければならない。どんなに素敵な発明であっても、無言で渡してしまっては受け取った者は首を傾げて終わってしまう。けれど大勢に懇切丁寧に説明をする手間も時間も魔道具もない、と頭を抱える魔術師もいることだろう。

そんなときは、先人の知恵を借りようではないか。古い呪文を使ってみるのも、気分転換になるかもしれない。

このコラムでは、我々の何代も前に発明された、いわゆる”古代魔法”について連連と語っていく予定だ。

前振りが長くなってしまったが、第1回は「ゼンベイガナイタ -Zenbei ga Naita」という極東民族に伝わる「人を引きつける呪文」、ジャックのひとつをご紹介しよう。

まず、古代呪文「ゼンベイガナイタ」だが、極東民族の文字では「全米が泣いた」と記される。意味は以下の通りである。

全 ⇛ すべて。ぜんぶ。
米 ⇛ コメ。おこめ。ごはん。極東民族の主食であった穀物。転じて命の意。
泣 ⇛ 涙を流してなげく。生き物が声を上げる。

「ゼンベイガナイタ」という呪文を用いて、極東民族は物に対する人々の認識を“「全ての命が声を上げ涙を流す」ほどに素晴らしい作品・物なのだ”と歪めることを試みた。

とりわけエイガ──空間固定・保存魔術の一種──と組み合わせて使用することが多く、効果は絶大だったという。この呪文を使用すると、知名度がなくとも話題性を持ち大勢の目に止まるようになり、大きな経済効果はもちろん、中には社会問題にまで発展したという記録も残っている。

ただし、この呪文には留意するべき点がある。多用は厳禁である。

害があるわけではないのだが、耐性がつきやすいという特徴がある。耐性を持った被術者は、興味を持つどころか内容を知る前に辟易とした気分になり、敬遠するようになるという。

古代呪文の研究者、クロウィ(BM1802)は「耐性を持つ被術者の中には『ゼンベイナキスギ』と唱え始める者が出た。これは自己防衛本能の働きにより解呪の文言が生じた瞬間である。」と述べている。

同じものを繰り返していれば、いずれ飽きられてしまう。便利な呪文であっても多用は避けたいものだ。製作者にしか伝えられない魅力というのもあるだろう。諸兄には自分の言葉を大切にしてもらいたい。

最後に、古代文字の意味というのは諸説あるもので、今回は一部のみの紹介に留まることをご容赦願いたい。

その上で、直訳過ぎるとしても、私は『全部のお米が涙を流し叫んでいる』という異常事態を知らせることにより気を引いた説を推したい。極東民族の食への異常な情熱があれば、過剰に効いたのではないだろうか。

【参考文献】
・ピーテル・クロウィ(BM1802) 『古代呪文実験 対人編』- ウナストリア社新書

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