“奴隷の価値も無かった” 大富豪ハルフェンの壮絶人生

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魔術師ならば知らぬ者はいない魔法薬・魔術触媒製造の最大手、ダイスクリーム魔術化学社。

その創業者にして現CEO、ハルフェン・ダイスクリームはエルフ人種の女性とオーク人種の男性の間に生まれた。

オーク人種とエルフ人種の対立と差別の問題は今でこそ解決の兆しが見えているが、今から90年前、ダイスクリーム氏がまだ少年だった頃はオークとエルフは互いにいがみ合い、貶し合い、殺し合っていた。

「私の母は戦争捕虜としてオーク人種の同盟軍に捕らえられ、強引に妊娠させられました。それが私だったのです。当時は中絶魔法が無く、私は健康体でこの世に産み落とされましたが、母は私の存在を忌まわしいものとして捉えていました。
エルフ人種は異常なまでに血統や純血を重んじる種族です。それは母も例外ではありませんでした。しかもその混ざっている血がオーク人種のものとなれば尚更のこと。私は物心つく前から虐待を受けていました。

ある日、母は虐待に飽きたのか、それとも他のエルフの人々からイジメを受けることに耐えかねたのか、私を奴隷商に売ろうとしました。しかし奴隷商は、オークとエルフの混血なんて誰も買わないと言って拒否しました。私には奴隷の価値もなかったのです」

ダイスクリーム氏はまるで他人の人生のように、自身の壮絶な過去を淡々と語る。

「この時私は家を出て母のもとを離れることを決意しました。このままでは母は私を殺そうとするか、自殺するだろうと思ったからです。

私は家を出て早速仕事を探しました。人種を悟られないように肌を泥や布で隠して、街中の商人や職人に頭を下げました。そしてやっと、ある一人の商人の方が私を小間使いとして雇ってくれたのです。私は死にものぐるいで働きました」

ダイスクリーム氏はそこで商いの方法や数学、文字の読み書きを勉強し、商人として独立したという。もちろん、顔や肌は隠しながら。

「私は魔術を学び始め、魔法薬の売買に興味を持ちました。魔法化学が比較的得意だったのもありますが、理由はなによりも、魔法薬を買っていく魔術師たちが私の容姿を気にする様子が無かったからです」

ダイスクリーム氏は商品を魔術師向けの魔法薬や魔術触媒に絞った。彼がドーランや布で顔を隠さなくなったのもこの時期らしい。

「魔術師の方は少し変わった人が多いのですが徹底した実力主義者で、魔法薬の質が良ければ私の容姿や血筋のことはまったく気にしませんでした。私はそれがとても嬉しかった。純粋に私の努力だけを見てくれたから」

小さな街の魔法薬屋からスタートしたダイスクリーム社はいまや年商約600億ライラの大企業だ。ダイスクリーム氏本人も、毎年発表される世界の大富豪トップ100の上位に君臨している。

「私はもう母のことは恨んでいません。ダイスクリーム社のビルが建ったあたりから金をせびりに来ましたが。

もちろん、私が産まれる前に姿を消した父のこともです。今では彼に会いたいとすら思っていますよ」

ダイスクリーム氏はそう言って笑う。

最後に、月並みな質問ではあるが、彼に成功の秘訣を聞いた。

「自分を無駄な存在だと思わないことです。“自分はこれができない、あれができない”と思った時は、できるようにしようと思う。ですが、“自分は無駄な存在だ”と思ってしまうと、何をしても虚しくなって、何もできなくなる。誰に言われてもどれだけ言われても、自分は絶対に生まれてきた意味があるんだと信じ続けることです」

ダイスクリーム氏は小さな魔法薬屋の頃から毎年欠かさず、子どもを保護する施設や人種差別解消運動を行なっている団体への寄付を続けているという。

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