
背広に腕を通し、通勤電車に揺られ、席に着けば魔力帯を履く。
一般的なサラリーマンによく見る朝の風景だが、そんな風景も近く形を変えるかもしれない。
デスクワーク系のサラリーマンではよく見られる「会社支給の魔力帯を履く」という行為が人権侵害に当たるのでは? という声があがり始めているのである。
会社勤めでない読者のために説明すると、魔力帯とはいわゆる「魔力抽出装置」であり、これによって企業は運営に必要な魔力を得ている。
しかし、高魔力児の誕生増加に伴う企業専属魔術師の増加や、「魔力は生命の力であり、それは家族や己の人生に使うべき」といった価値観の変化によって、「専属魔術師以外に魔力の提出を求めるのは搾取なのではないか?」という考え方が若者の間で広まっている。
従来からの伝統を重んじる企業からは「会社は家族であり、家族を助けるのは当然ではないか」という声もあがっているが、一部では若者に賛同して献魔法式で魔力を集める企業も出始めている。
また、専属魔術師互助会からは「たしかに一般人よりも魔力換算能力は高いが、専属魔術師も人であり、高負荷を強いれば共倒れになってしまう。企業に対する専属魔術師の数は足りているとは言えず、企業との共存を目指していきたい」との声明を出している。
公を取るか私を取るか、判断を誤ればどちらも失うというのが人の世の常である。