賢明なる読者の皆様の中にはこの見出しでお気付きになった人もいるだろう。獣の月第7夜の今日「あの問題」がついに解決したのである。そう、重力魔法は土魔法なのか闇魔法なのか、である。
この問題は200年前、魔法界きっての奇人と呼ばれたツヴァイトアイゼン氏が重力魔法を発見したことに端を発する。新魔法実験の過程で重量の増加、果てには光すらも捻じ曲げる謎の力場が発生したのである。これを受け、中央魔法協会は暫定的に光のような非物質にも「重さ」という「力」を与える魔法として「重力魔法」という呼称を定めた。
そして、当時の実験の結果、土・闇のどちらかを基礎としたものであると一応の決定がなされた。魔法が用途による分類のほか、属性による分類が存在するのは言うまでもないが、今回はここに問題が発生した。
この重力魔法は他の魔法との親和性があまりにも高すぎたのである。これを受けて、土、闇の各魔法団体は、重力魔法が自分たちの固有のものであるとそれぞれが主張を始め、「闇なんていう根暗は家でカーテン締め切って寝てろ」「そんなに土いじりが好きなら畑でも耕せばいいだろ」などと議論に関係のない中傷まで叫ばれた。混乱を鎮めるため、ツヴァイトアイゼン氏に聞こうにも氏はこの時すでに魔法実験の失敗により没してしまっている。故に、この問題が今日まで残ってしまったままになっている。
果たして、この問題はいかにして解決されたのか? 理屈は簡単である。中央魔法協会第四支部魔導解析課、通称「智慧の司書」がこの魔法の理論解析に成功し、効果は低いながらも「確認しうる全ての属性」の魔導師が行使に成功してしまったのである。もはや問題は、土魔法なのか闇魔法なのかというところにはない。この結果を受け、中央は見解を変更。この重力魔法を含め、今後同様のイレギュラーが発生したときに備え、新たに「無属性」の魔法を制定したのである。
こうして200年わたる魔導論争が1つ決着を迎えたが、どちらに転ぶかを楽しみにしていた者にとっては、砂利を噛んだような、暗がりに放置されたようないささか味気の「無」い結論を迎えてしまったことは確かだろう。
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