
変身魔法は、我々の身近なところで使用されている魔法だ。
例えば「化け粧ファンデーション」は調合失敗時にできた顔のイボ隠しによく使われている。また筆者のような魔法生物は、「WTA(Working Transform Animal)」として変身魔法を用いてヒューマン等に化けて仕事をしている。
このコラムでは、変身化け学の権威として著名な化け狸大学教授の茶釜 ぶんぶく氏(以下 茶釜氏)にアドバイスを頂きながら、変身魔法を使う上での落とし穴や、知っておくと便利な術式や魔道具等を紹介していく。
今回のテーマは先程も上がった「WTA」についてだ。
◆そもそもWTAとは
我々「変身魔法(化け魔法)を使用できる動物」は元々「変身魔法生物」というカテゴライズがされていた。
当時から使い魔として社会に出て働く者も多かったが、主人に命令されるのではなく自分で魔法を研究したいと思う魔法生物、もっと平等に給料が欲しいと訴える魔法生物が数多くいた。そのため、魔法使いの現場で働こうとこっそりとヒューマン種に化け、柿の葉を履歴書、フキの葉をカバンに変身させて魔法社会に紛れ込む時代もあった(もちろん現在では不法就労にあたる)。
近年「変身魔法生物を使い魔としてではなく、社員として登用できないか?」といった気運が高まり、国からの法整備が整って初めて免許制度を用いてのWTAの社会進出がはじまった。
魔法生物たちは専用の学校、大学へ通い社会について、魔法について勉強し、WTA免許センターでの試験に合格すればWTA免許を取得することができる。魔法使いと同等の立場で働くことができるのだ。
高い給料にひかれてか、中には免許を持たずWTAだと偽って不法就労しようとする魔法生物もいるが……また別の機会に紹介しよう。
◆WTAの変身解除問題について
WTAは一日中ヒューマン種などに変身し続けなければならない。
そのため、元々の魔力量が少ない魔法生物種族の場合は、仕事の最中に突然失神、元の姿に戻ってしまう……といった事故が起こりやすい。休憩の際に元の姿に戻る事ができればいいが、
「取り扱う薬品に毛が入ってしまったら……と思うと迂闊に元に戻れない(調合師 化け狐)」
「休憩時に元に戻ったら踏みつぶされて全治三ヶ月の大怪我を負った(会社員 ムクレガマガエル)」
といった事情から、休むべきときに休めないWTAも多い。
茶釜氏「大学の講義で学生達にもよく言うのですが『何のために化けるのか』、それがとても大事なことです。例えば、仕事の最中は全身化け続けなければいけないのでしょうか? 例えばペンを持ち執筆するだけならば手だけをヒューマンに変身させればいい。『部分的変身魔法』というやつです」
そう言って茶釜氏は右手をヒューマンに変身させ、Vサインを作った。
部分的変身魔法は集中力が必要になるが、魔力消費量は全身変身よりも格段に抑えられる。該当魔術書も比較的安価に手に入るため、WTAでなくても覚えておいて損はない。
◆WTAの間で広まる『魔薬』問題
茶釜氏「ヒューマンの手は細かい作業に最適です。ですから変身解除せずにそのままヒューマン手で仕事をし続けるWTAが多い。結果、魔力が切れて仕事中に失神したり、足りない魔力を補おうと怪しい『魔力増強薬』に手を出したりするのです」
梟通信販売等で簡単に手に入ってしまう魔力増強薬(通称 魔薬)。薬効はどれも眉唾ものだが、例えばヒューマンやエルフ種にとって無害な成分でも、WTAにとって有毒である可能性は否定できない。犬科や猫科のWTAが魔薬に含まれるネギ類を摂取してネギ中毒になる場合も考えられる。
茶釜氏「部分的変身魔法でもそうですが、魔力を節約する思考が大事です。化け学で教える変身魔法では補助魔道具として葉っぱを頭に載せるのですが……葉っぱを使って変身するだけで、約30%の魔力消費を抑えることができます」
この化け学で用いる葉っぱだが、使用者の出身地の木の葉が一番効果が高いという。柿の葉、紅葉、バラの葉、オークの葉……怪しい魔薬ではなく、自身に合う葉っぱを補助魔道具として使用してはいかがだろうか。
※魔力増強薬については此方の記事も参考にしてほしい。
>> 『 増え続ける魔力増強薬の実態 その薬、安全ですか? 』
次回「主体的変身魔法、受動的変身魔法」についての記事をお届けする予定だ。首を長くして(※これは比喩表現であって、覚えたての部分的変身魔法で首を長くして待つのはおすすめできない)お待ちいただければ幸いだ。