増加する「留年スラム」 止まらない若者の浮世離れ

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留年、失踪、転生──学部を4年間で卒業できる大学生が6割に満たないという統計がある。

特に留年した学生たちが地下のダンジョンに作りあげる「留年スラム」は、社会問題として近年注目を集めている。

名門として知られる王立アトス大学もまた、「留年スラム」を多く抱える大学の一つ。筆者は所在地の秘密を守る条件で、アトスにおける留年スラムへの特別取材を許された。

「ここには何でもある。単位以外はね」

リム・メイ君は、魔法デザイン学部の5回生だ。昨年の春に留年が確定して以来、ずっとこのダンジョンの外には出ていないという。彼の言葉通り、薄暗いはずの迷宮には人工太陽が浮かび、乱雑に立ち並ぶ出店は活気に満ちていた。衣服に食事、娯楽さえもが留年スラムには流通している。

「時空が歪んでいるんです。気付いたら留年していました。ひどい話ですよ」

ユグドラうどんを立ち食いしながら、リム君の声に怒気が滲んだ。アトス大学周辺では、魔法実験の影響により実際に時間の流れが歪むことがある。彼もまた、そうした歪みの犠牲者なのかもしれない。

(△留年スラム居住区。地上から流れ着いた廃品が活用されている)

「卒業研究とか、就活とか、ピンとこないし。いっそ、現世を離れちゃってもいいかなって」

そう語るのは、儀式学科36回生のパパゼ・スパリボル君。30年以上の留年歴を誇る重鎮だ。身体に青色の炎を纏っている彼は、昨年度からこのスラムで精霊転化の儀式を始めたという。

「授業がない分、儀式に集中できるんだ。もう存在位相の7割は精霊界に移しちゃってるよ」

パパゼ君の笑顔は半透明で、彼の肉体を通して背後の景色が垣間見えた。

熱くないんですか。そう尋ねようとした次の瞬間には、パパゼ君の姿は煙のように消えていた。それからパパゼ君のことをスラム中に聞いて回ったが、一人として彼のことを覚えている留年生はいなかった。

現代の若者文化は、確実に浮世離れを始めている。魔法学生の闇は深い。

(追記:本記事の公開直後、当該スラムは大学当局の安全衛生委員会・突撃司書隊の手で完全撤去された)

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