コラム:古代呪文を読み解く【第2回】ディスイズアペン

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あなたは初めて異国の言葉に触れたときのことを覚えているだろうか。

綴られた見たこともない文字。知らない概念を表現する言葉。聴いたことのない音。それらが形成する言葉の意味を知るときの、あの高揚感。未知のモノを理解するときの喜びと、ほんのちょっぴりの恐怖。胸の中で妖精たちがダンスパーティーをしているかのようなざわめきが訪れる。

ここ何十年かで研究も進み、自動翻訳呪文の魔法陣や魔具が流通し始めた。巻物や書物をがさごそ漁り、分からない異国語を調べながら記していく、という作業は少なくなった。私自身もその恩恵を存分に受け、この記事を書いている。

しかし、自動翻訳呪文がなかった時代。古代の魔術師たちは、異国語を覚えるときはどうしていたのだろうか?その様子が伺える書物を先日入手できたので、内容から少しだけご紹介しよう。

遥か昔、実は彼らも異国の文字を前にし、まずは呪文を唱えたのだ。「ディスイズアペン」、と。

さて、古代呪文を紹介するコラム第2回は、「ディスイズアペン -Dhis iz a Pen」を紹介しよう。第1回に引き続き、こちらも古代極東民族に伝わる呪文である。

実を言うと効果から考えると、これは呪文ではなく「おまじない」の部類に入るものだ。

このおまじないは、主に教育機関に通う魔術師見習いたちが使用していたものだ。

呪文を唱えて心身の準備を整える。言ってしまえば暗示に近いもので、効果が実際にあったかどうかは定かではない。子どもたちが復唱することにより、「耳」と「目」が異国の文字・呪文を拒絶せず受け入れる準備をしたのだ。

この呪文は、極東民族であれば必ず唱えたことがあるといっても過言ではない。効果は不安定ではあるものの、この呪文が成立したのは、彼らの歴史と深い関係がある。

まず、極東民族は閉鎖的な環境で独自の文化を培ってきたことを念頭においてもらいたい。一時期は国境に強固な防壁魔術や認識歪曲呪文を施し、外部からの干渉を完全に遮断していた時代が長く続いた。長い年月を経て、極東民族は肉体に、血にその呪文を練り込むようになった。無意識での多文化の拒絶である。

しかし長い歴史の中で、内乱や国外との争いにより開国を余儀なくされ、多くの文化が流入するようになった。そのうえで血に練り込まれた防護の魔術は、彼らの枷となっていったのだ。それを少しずつ緩和していくために、極東民族は「ディスイズアペン」の呪文を開発した。

「ディスイズアペン」は呪文である以前に、極東民族から見た異国の簡単な言葉であった。彼らは剣と杖を置き、争いを放棄し、『これは筆である』と唱えたのだった。

全てを跳ね除ける強固さを持つのか、受け止めて選ぶ柔軟さを得るのか、守るためと言っても色々な方法がある。どれを選ぶのかは個々の自由であるが、無意識に埋め込まれた価値観というものを覆すのは案外難しいものだ。そんなときは、効くかどうかわからなくても、古い古いおまじないを唱えてみてはどうだろう。少しだけ視野が広がるかもしれない。

 

 

【参考文献】
『新しき水平線』

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