増え続ける魔力増強薬の実態 〜その薬、安全ですか?〜

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「この薬を飲めば魔力を増やせますよ」

そう言われたとき、あなたはそれを飲んでしまわないと言い切れるだろうか……?

近年、そんな薬に関する被害報告が相次いでいる。当然ながら法律では許可されていないが、「禁止もされていない」ことにより摘発できないのが現状だ。効果はあるのか? どんな成分が使われているのか? 増え続ける魔力増強薬の実態に迫った。

 

氾濫する魔力増強薬

魔法を使うには、魔力が必要だ。

そして、備わった魔力量というのは生まれつきのものであり、多い人と少ない人との差は一生縮まらないとされている。

進学や就職の際に魔力量による差別が存在することは、以前から問題になっていた。国も解決に向けて動いてはいるが、いまだ決定的な方策を打ち出せずにいる。

そんな中、梟通信販売や路地裏の魔法薬ショップなどでじわじわと広がりを見せているのが『魔力増強薬』、通称『魔薬』だ。筆者が確認したところ、販売されている魔薬は五十種類以上に及んだ。もちろん公には売られていないものの、入手するのは非常にたやすい。

飲むだけで魔力量を増やせる。そんなうまい話が本当にあるのだろうか? 誰しも「怪しい」と考えるはずだ。しかし「必ず魔力が増える」という甘い言葉に、ついつい飛びついてしまう人も少なくないのである。

 

気になる成分は

魔薬の原料になるのはサラマンダーの鱗やウンディーネの涙など、魔力容量が高いとされている素材だ。ほとんどは無害だが、中には材料を偽って売っているものもあるらしい。本当に無害かどうかわかったものではない。

そこで、筆者がとあるツテで入手した魔薬『マ○ョックΩ』について、王都大の魔法薬学研究室に成分解析をお願いしてみた。

宣伝文句は「ウンディーネの涙30%配合! たった数日で魔力増強効果を実感できます」というものだが、果たして……?

「解析結果ですが、基本的に人体には無害です。ただし、ウンディーネの涙は1%も含まれていませんでした。主成分は……クサレドラゴンの涎ですね、当然ながら魔力増強効果はありません」(王都大の魔法薬学研究室)

私を待っていたのは、案の定ともいうべき結果であった。私は丁重にお礼を述べ、研究室を後にして、トイレでさっき飲んだ魔薬をすべて吐き出した。異様に臭いと思ったらそういうことか。

しかし、こんなのは序の口である。

魔薬の中には非合法な材料を用いたものもあり、そういったものを飲んでしまった場合の人体への影響は未知数だ。例えば、こんな事例もある。

 

魔力増強薬が招いた悲劇

「主人がこんなになってしまって……」

悲しげな表情を浮かべるのは、H地区にお住まいのKさんだ。

「昔から人より魔力が少ないことを気にはしてたんですけど、まさかあんな怪しげな薬を飲んでしまうだなんて」

Kさんは庭を指し示した。

庭にある小さな池の中では、全身が虹色に輝く鯉が楽しそうに泳いでいる。

「魔力増強薬を飲んだ瞬間、みるみるうちに体が縮んで、鱗が生えて。慌てて庭の池に放り込んだらすごく元気に泳ぎ始めました。もう、私が話しかけても『餌』以外の言葉には反応してくれません」

Kさんは肩を落とす。

魔法病院に連れて行ったら「魔法生物病院に行け」と門前払いを受け、魔法生物病院では珍しい個体として解剖されそうになったので慌てて逃げ帰ってきたという。

「私はこれからの人生、虹色の鯉を主人と呼んで生きていかなければならないのでしょうか」

私はかけるべき言葉がみつからず、そっと差し入れの水草を置いてその家を後にした。

 

総括

というわけで、市販されている魔薬の効果のほどは非常に疑わしい。

私が入手した薬に関しても、あのクサレドラゴンと間接キスをするぐらいで済んだのだからありがたいと思うべきだろう。虹色の鯉にでもなってしまったら、原稿が書けなくなってしまう。

魔力が少ないことにお悩みの皆さん、気持ちはわかる。私もそうだ。だが、法律で許可されていないということは、現状何の規制もされていないということだ。どんなに危険な材料を使っていたとしても、あなたにはわからない。毒が入っているかもしれないし、依存性の劇物が入っているかもしれない。事実、そういう事例だって存在するのだ。

怪しげな薬に手を出す前にもう一度考え直してほしい。

その魔薬、本当にあなたの人生を賭けるに値するものですか……?

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