ホウキスピードレースの地方対抗戦でアイロンフレア製「ボルケーノ」が初勝利を収めた。誰も予想していなかった結末に、会場となったメリッサリーフスタジアムは沸き立った。
アイアス地方の代表、鉄製のホウキ、火属性を使用した推進力で飛ぶ術式がスピードレース公式戦で勝利するのは今回が初めて。
ボルケーノは火属性の魔法石を埋め込んだ鋼鉄製のホウキで、長さ二メートル、重さ二十キログラム。バトルレース用ホウキよりも重いが、鋼鉄の耐久性を活かし、木製ホウキでは実現できない火属性魔法による加速を可能にした。
理論上の最高速度は時速二百キロメートル。地方対抗戦でも最後の直線で瞬間時速百八十キロを叩き出した。最近のスピードレースの流行である軽量化志向の対極に位置するこのホウキが勝利したことは、ホウキメーカー界に大きな影響を与えるだろう。
ボルケーノを製作した工房「アイロンフレア」は、アイアス地方に拠点を構えるドワーフ中心の職人集団だ。アイアスの土地柄大気中のマナが少なく、通常の魔法発動が難しいという特徴がある。代わりに地中にある鉱石がマナを含有することがあり、魔力を帯びた金属や宝石が日常的に動力源として使用される。アイアスで最も有名な蒸気機関が、その活用方法としてよく知られている。
金属、宝石の加工を得意とするドワーフ族は他と比べて排他性が高い傾向があるが、地上に出てアイアスの街に暮らしているドワーフは比較的外部へ開かれた性格が多い。秘密主義ではあるものの、認められればよそ者でも工房入りできる程度だ。身体能力に自信のある魔法使いであれば、世にも珍しい鋼鉄製魔導具の職人になることも可能だ。
マナの少なさから魔法使いに避けられてきたアイアス地方が、鉄製ホウキ・ボルケーノの躍進によってこれから注目を集めることは間違いない。これをきっかけにアイアス旅行に向かう際は、底の厚い靴を忘れずに。また、鋼鉄製ホウキを購入する場合は、自分で持ちあげられる重量であることをよく確認する必要がある。