長年付き添った妻、精霊だった 夫の死とともに判明

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ラスカリア国東部に位置するカンタ村にて、とある男性が息を引きとった。

農家を営んでいたマーリン・シュヒット氏(89)の家族は、60年以上連れ添った妻のフェリス・シュヒット氏(85)ただひとり。唯一の肉親に見守られながら、マーリン氏は病によりこの世を去った。

村の人々は悲しんだが、彼らの心を揺さぶった出来事はそれだけではない――妻のフェリス氏は、実は精霊だったのだ。

当時の状況について、夫婦と親しかったトムロイ・ミル氏(53)はこう語る。

「何が起きたのか、よくわかりませんでした。葬式のしばらく後、見舞いの品を持ってシュヒットさんの家を訪ねまして。ノックをしても返事がない。心配になって、思わずドアを開けてみたんです。そうしたら……」

当時、マーリン氏の家には、夫と死別したばかりのフェリス氏がいるはずだった。だがそこにいたのは、青く輝く結晶に似た、一体の精霊のみだったという。

驚愕するトムロイ氏の前で、精霊は自由自在に姿を変え、霧雨のようになって窓の隙間から飛び出した。それが去った後、トムロイ氏は改めて家の中を見渡してみたが、そこにはもはや誰の姿もなかった。

夫妻との思い出について、トムロイ氏は振り返る。

「若いころからの知り合いで、よく世話を焼いてくださいました。『息子のように思っている』と言われたこともあって、そのときは本当に嬉しかったものです」

照れたようにうつむきながら、言葉をつづけるトムロイ氏。

「村の中では、おそらく誰よりも夫妻のことを知っていると思っていたのですが……こればかりは、秘密だったんでしょうか。すこし複雑な気分ですね」

いかにも残念そうな声色だったが、昔を懐かしむような微笑みは崩さない。夫妻がいかに親しまれていたのか、その反応からも汲みとれるような気がした。

現在、シュヒット夫妻の残した家屋や土地などの遺産は、村人たちの合意の上、手をつけないまま保存されている。

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