王立アトス大学の都市伝説に迫る 「大学図書館の魔法人形」

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王立アトス大学の図書館には、古エルフ時代の魔法人形が住み着いている

そんな都市伝説をご存じだろうか?

レポートの資料探しに困ったら、大魔導師アトスが作った魔法人形“デウス・エクス・マギア”が手伝ってくれる…というのが、学生たちの間で広く流布されている噂の概要である。

伝説の真相に迫るため、私は「大迷宮」と呼ばれているアトス大学第8図書館へ足を踏み入れることにした。ここは教授や学生以外の外部魔法使いにも開放されている大学図書館だが、生半可な覚悟で入館していい場所ではない。

時空が歪むなどの現象が多発するアトス大学の中でも、混沌学部の関連書籍が集まる第8図書館は「大迷宮」にふさわしい“歪み”を有している。常識にとらわれない方向感覚、サバイバル能力、そして帰還する強い意志が必要な危険地帯であるということを先に述べておきたい。

魔法人形の探し方

まず大学内で囁かれる噂を精査し、魔法人形の探し方を定めるところから始めた。

まとめると、「本棚の中で不自然なスペースがあったら、そこへ魔法人形宛の手紙を置く。しばらくすると、魔法人形からの返事が本棚に入っている」というもの。

いかにも都市伝説的だが、まず「本棚の中の不自然なスペース」を見つけ出すのが難しそうだ。それは、棚に入るべき本は全て収まっているのに、なぜか1冊分のスペースが空いている…というものだという。

第8図書館を選んだのは、その構造が複雑で、さらに不定形であるからに他ならない。利用者が少ないため、本棚に空いたスペースは高確率で「あるはずのないスペース」になると予測できた。

なお、第8図書館をもっとも利用していると思われるアトス大学混沌学部長の■■■■=“ジーニー”・■■■■■■教授は次のように語る。

混沌学の書籍は高濃度の混沌を内包しており、周辺の法則や空間、時間を歪めることがある。第8図書館は、耐魔装備を複数装備した上で定期的に自我を認識しなおす必要があり、利用者は極端に少ない。私のように存在の一部を混沌に呑まれたくなければ、きちんと対処してから入館するように。

“ジーニー”教授は本名を混沌に呑まれ、通称を使っている。混沌学の研究者であればこそ、この程度で済んでいるが、素人が備えもなく第8図書館に入れば肉体ごと混沌に呑まれてしまうだろう。

魔法人形との接触

結論から言うと、私は魔法人形との接触に成功した。

混沌に認識を歪まされたものではない。事実、本棚の中にあるはずのないスペースが存在し、手紙を差し入れてしばらく待てば、そこにはなかったはずの書籍が本棚に収まっていた。

第8図書館に入ってから、耐魔効果のある水晶スマートフォンの時計では3日──その時点で、体感では5日──が経過した私は、完全に帰る道を見失っていた。

混沌を抜け出すためのセオリーは、「深いと思った方に行けば浅い」というものなのだが、そのセオリーを知った時点で混沌を浴びると「深いと思った方に行けば本当に深い」という状況に陥ってしまう。混沌学の難解さは主にここから生じており、この段階さえ乗り越えれば単位取得と卒業自体はさほど難しくはない。

筆者は混沌学部卒業生として、第8図書館の脱出方法を習得しているつもりだったのだが、しばらく離れている間に腕が鈍ってしまったようだ。

そんな時に現れたのが、全169巻からなる混沌学の主要書籍■■■・■■■■■・■■著『混沌に■■る■■■■』が収められた本棚であった。

この本棚には1巻から169巻まですべての『混沌に■■る■■■■』が入っていたにも関わらず、50巻と51巻の間に不自然なスペースが存在した。魔法人形に接触するための条件を、3日目にしてようやくクリアしたのだった。

感動したのも束の間、持ち込んだ食料も持ち前の気力も尽きかけていた私は、用意しておいた魔法人形への手紙を無視して、取材用のメモに「ここから出る方法」と書いてちぎり、50巻と51巻の間に差し入れた。

それから、体感にして半日──耐魔水晶スマートフォン上では5分──ののち、まばたきをしている間に魔法人形デウス・エクス・マギアからの返答が現れた。

『混沌に■■る■■■■』の50巻と51巻に挟まれていたのは、懐かしき『パユパユペペリリマーン学入門書』だった。

なぜ混沌学部卒業生が、パユパユペペリリマーン学の入門書を懐かしく感じるのか? それは、第8図書館から出る方法が「思考を捨てること」であることに起因する。パユパユペペリリマーン学の記述は専門外の魔法使いにとって意味不明であり、思考を放棄するのにもっとも優れた混沌学部生必携の書籍である。

私は『パユパユペペリリマーン学入門書』を読みながら第8図書館を歩き、第1章を読み終わるころに出口へ到達した。以上が、魔法人形との接触の全貌である。

まとめ

デウス・エクス・マギアは、大魔導師アトスの書庫を管理する番人だったという。

姿こそ見られなかったものの、的確な書籍を選択し望む者のもとへ届けられるのは、かの魔法人形だけと言っても決して過言ではないだろう。

たとえ古エルフ時代の魔法人形、デウス・エクス・マギアそのものでなかったとしても、王立アトス大学の図書館には、迷った魔法使いに手を差し伸べるものが存在することが分かった。

研究、あるいは人生に行き詰まった魔法使いは、一度王立アトス大学の大学図書館を訪れてみてはいかがだろうか。魔法人形があなたの悩みに答えを出してくれるかもしれない。

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