近年、魔法に頼りすぎた生活が問題視されている。
ほんの身近な距離を移動するだけでも空間魔法を使い、魔道書一冊を持ち上げるだけでも浮遊魔法を用いる。運動不足による生活習慣病の発症数も増え、医療費の増大は議会の悩みの種となっている 。
その一方でなるべく魔法を使わない、省魔法主義が冒険者の間でひそかな広がりを見せている。
「魔法って便利なんですけど、一方的に使われるほうは可哀想だなって。
ある日、そう思ったんです」
冒険者のチカラ・スキ氏はそう語り、手のひらの上で火球を浮かべてみせた。
スキ氏は高位の火炎魔法術師で、オークの砦くらいであれば数時間で消し炭にしてしまうほどの力を持っている。だが、彼女はあえてそうしない。
「可哀想ですよね。モンスター達は身体ひとつで立ち向かってくるのに、私たちが魔法で攻撃するのは。
だから私はダンジョンで主と遭遇した時でも、腕力で解決するんです」
スキ氏は鍛え上げた両拳で、多数のモンスターを葬ってきた。
そんな彼女の姿に共感した魔法使い達も、あえて魔法を使わず、モンスターを素手で撲殺する道を選び始めている。
「高位の魔法を習得したときよりも、腕力を得た時のほうが幸福感が強い」
「魔法を使えない側は、魔法で攻撃された際に大きなストレスを感じる。腕力を用いた場合、モンスター側のストレスも少ないのでモンスターに優しい」
そういった研究結果も報告されている。
生活圏の魔法使いが肉体的な健康を損ねる一方で、ダンジョンに潜る冒険者の健康寿命が長くなる___そんな日が来るかもしれない。